研究課題/領域番号 |
26292080
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
富樫 一巳 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30237060)
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研究分担者 |
杉本 博之 山口県農林総合技術センター, 林業技術部, 専門研究員(総括) (00522244)
松永 孝治 国立研究開発法人 森林総合研究所, 林木育種センター, 主任研究員 (40415039)
柳澤 賢一 長野県林業総合センター, 育林部, 研究員 (90755191)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 林学 / 森林保護学 / 侵入生物 / マツ材線虫病 / マツノマダラカミキリ / マツノザイセンチュウ / ニセマツノザイセンチュウ / カラフトヒゲナガカミキリ |
研究実績の概要 |
長野県松本市から塩尻市にかけて,マツ材線虫病の激害地A,発生継続地B,発生先端地C,未発生地Dのアカマツ林に調査区(30m×30m)を設け,1林分あたり5粘着トラップを2015年5月末から10月上旬まで設置し,またアカマツ新鮮丸太を設置して媒介昆虫を捕獲した。その結果,林分ABCDの順に,トラップあたりのマツノマダラカミキリ成虫密度は1.6,0.6,0.0,0.0と減少したのに対して,カラフトヒゲナガカミキリ成虫は0.2,0.0,0.6,0.2と低密度で広く分布していた。rDNAを用いて媒介昆虫の保持線虫を調べると,2種の媒介昆虫とも1頭の昆虫からマツノザイセンチュウとニセマツノザイセンチュウの遺伝子が同時に分離されることがあり,遺伝子浸透が野外で起こっている可能性が示唆された。 山口県萩市(旧田万川町)のアカマツ林分(初期生存木数100)から毎年5枯死木を採取し,発生したマツノマダラカミキリ成虫の体重,産卵前期間,後翅面積,卵巣小管数を調べた。その結果,大発生した2013年と2014年の成虫の体サイズは有意に大きかった。大発生前の2012年には翼荷重と産卵前期間の間には有意な負の相関があったが,大発生の年には翼荷重に対して産卵前期間は変化を示さなかった。つまり,大発生前,媒介昆虫は分散しやすい個体は繁殖が遅くなる傾向があった。それに対して,大発生すると,分散能力と無関係に繁殖が始まり,病気の被害地が広がりやすくなることが示唆された。 アカマツまたはクロマツの小丸太にマツノザイセンチュウ,台湾産マツノマダラカミキリ孵化幼虫,青変菌を組み合わせて接種したところ,線虫密度は昆虫のフラスで極めて高く,材や樹皮では低かった。一方,線虫は昆虫の発育や成長に影響を与えなかった。このことから,樹体内の線虫と媒介昆虫は片利共生であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
夏が比較的冷涼な,マツ材線虫病の発生先端地域では,病気の流行とともにマツノマダラカミキリ個体群密度が急速に増加するが,カラフトヒゲナガカミキリは,材線虫病の発生とは関係なく,低密度で広く分布していた。そして,病原性のマツノザイセンチュウと非病原性のニセマツノザイセンチュウの2種線虫が同じ媒介昆虫にいる頻度が高いことが分かった。つまり,野外で遺伝子浸透が起こる可能性が高いことが示唆され,研究は「おおむね順調に進展している」と判断された。
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今後の研究の推進方策 |
研究は,おおむね順調に進展している。そのため,当初の計画通りに研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
野外調査地及びその付近での新しい枯死木の伐採了解、サンプリングの了解に時間が掛かった。また、昨年度については試験地内の枯損木被害が想定ほど進まず、調査地管理のための伐採数量が少なかった。そのため,予定していた枯死木伐採と材片のサンプリング,丸太の運搬,線虫の培養と遺伝子解析が先送りになった。
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次年度使用額の使用計画 |
今年の材線虫病の感染時期の前に,昨年秋からそれまでに発生した枯死木を伐採する費用と,トラップ枠の設置し直しや材料購入の費用に当てる。
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