研究課題/領域番号 |
26292086
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
山本 福壽 鳥取大学, 農学部, 教授 (60112322)
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研究分担者 |
板井 章浩 鳥取大学, 農学部, 准教授 (10252876)
児玉 基一朗 鳥取大学, 農学部, 教授 (00183343)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナラ枯れ / カシノナガキクイムシ / Raffaelea quercivora / 樹脂 / エチレン / ジャスモン酸 / サリチル酸 / 沈香 |
研究実績の概要 |
(課題1) 樹幹の菌感染にともなう防御システム発現機構とシグナル物質の役割:ブナ科樹木萎凋病(いわゆるナラ枯れ)を発症したコナラ属樹木に認められる病理的心材の形成におけるエチレン、ジャスモン酸およびそれらの相互作用の役割を明らかにすることを目的として、人為的に培養したRaffaelea quercivola菌をコナラ苗木に接種するとともに、エチレン発生剤のエスレル(Et)、およびジャスモン酸メチル(MJ)を樹幹内に注入処理し、菌糸の示す蛍光反応の観察による組織内分布の解析を行い、感染に及ぼす影響を調べた。この結果、ナラ菌の蔓延はエスレルとジャスモン酸メチルの混合処理区において抑制される傾向がみられた。 (課題2)抗菌物質生成の人為的制御:樹幹に生じた傷害や病原性微生物の感染に対する防御システムとしての樹脂分泌のしくみを明らかにすることを目的として、樹脂分泌が観察される広葉樹3種、針葉樹2種を用い、樹幹傷害部に対してエチレンの生成物質であるEt、およびMJの処理を行ってそれぞれの効果を比較検討した。実験はハゼノキ, コシアブラ、ウワミズザクラの3種の広葉樹と、スギ, ヒノキアスナロの2種の針葉樹を用いた。この結果ハゼノキ、ウワミズザクラ、スギの3樹種では5%のMJを混和した処理区で多量の樹脂流出が認められた。一方、ヒノキアスナロでは濃度にかかわらず、MJあるいはEt単体よりも複合処理区の方で多くの樹脂が溢出した。コシアブラでは5%MJの処理区のみで顕著な流出が見られた。 (課題3) 有用抗菌物質の生産促進技術開発:沈香の人為的な生産技術の開発のため、タイ王国において幹の傷つけ法によって得られたAquilaria crassna樹の香油(市販)に含まれるセスキテルペン類を分析した。さらにカセサート大学実習ステーションにおいて同種の樹幹にE,MJ、およびサリチル酸ナトリウム(SA)の処理による生産促進の実証実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(課題1) 樹幹の菌感染にともなう防御システム発現機構とシグナル物質の役割:苗木を用いたナラ枯れに関連するvaccination効果実験の達成度は50%。エチレンとジャスモン酸によるVaccination処理効果はほぼ明らかになり、学会で報告した。しかし組織内のナラ菌の確認は不完全である。また成木を用いたvaccination効果実験の達成度は50%である。 (課題2)抗菌物質生成の人為的制御:達成度は70%。傷害部の樹脂分泌は樹木によって①エチレン型、②ジャスモン酸型、③エチレン・ジャスモン酸相互作用型の3種類があり、特にウルシはジャスモン酸単独で分泌が制御されていることが分かった。 (課題3) 有用抗菌物質の生産促進技術開発:達成度は30%。タイにおける沈香生産実験はほぼ完成し、残るは実証実験のみである。乳香などの他の樹脂については27年度に着手する。
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今後の研究の推進方策 |
(課題1) 樹幹の菌感染にともなう防御システム発現機構とシグナル物質の役割:苗木、成木を用いたナラ枯れを制御するためのvaccination効果実験を完成させる。特に成木では、薬液注入法による処理実験を行う。さらにナラ菌感染後のエチレン生成が重要な役割を果たすことから、ACC生合成にかかわる遺伝子発現の樹種間差についても研究に着手する。 (課題2)抗菌物質生成の人為的制御:傷害部の樹脂分泌におけるサリチル酸の役割を明らかにする。またウルシ生産の実証実験を岡山県と石川県(輪島市)で行う。 (課題3) 有用抗菌物質の生産促進技術開発:2015年5月にはタイにおける沈香生産実証実験の結果得られる香油の分析を開始する。また2015年6月にスーダン共和国を訪問し、Acacia senegal樹を用いたアラビアゴム生産促進技術の開発実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.ナラ菌感染後のエチレン前駆物質ACCの合成にかかわる遺伝子の解析について、木部が堅すぎたために粉砕がうまくいかず、再挑戦することにしたこと。 2.乳香、アラビアゴムなどの生産のため、セネガル共和国での実験を企画したが、出発直前になってエボラ出血熱のため訪問を大学から自粛させられたこと。
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次年度使用額の使用計画 |
1.ACC合成酵素の解析により、コナラ属樹種間のナラ菌感染反応の差異を調べる。 2.エボラ出血熱の問題がないスーダン共和国に研究の場を移し、2015年5月20日~6月2日にかけて同国を訪問、ハルツーム大学でアラビアゴム生産の実験を行う。データは本年度中に再訪して採集し、取りまとめる。
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