研究課題/領域番号 |
26292092
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
安江 恒 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (00324236)
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研究分担者 |
桃井 尊央 東京農業大学, 地域環境科学部, 助教 (00445694)
小林 元 信州大学, 学術研究院農学系, 准教授 (40325494)
斎藤 琢 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 助教 (50420352)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 気候変動 / 年輪年代学 / スギ / ヒノキ / フラックス / 温暖化 / 光合成 / フェノロジー |
研究実績の概要 |
1)高山試験地および奥多摩演習林においてスギおよびヒノキを対象に,肥大成長の季節変化について,従来のナイフマーキング法とタイムラプスカメラとダイヤルゲージを併用した方法,自動記録式デンドロメータにて測定を行った。樹幹径は,形成層の活動期には早朝に最大径,夕方に最少径となるが,停止時期には異なる日変化が確認された。この日変化の違いが形成層活動の再開時期,停止時期の判定に有効か検討中である。 2)高山試験地のスギ林において,光合成生化学パラメータであるVcmaxとJmaxの温度依存性の季節変化を6月から12月にかけて毎月調べた。得られたパラメータをもちいて,温度-光合成曲線の季節変化を推定した。モデルシュミレーションで得られた結果は,野外で実測された光合成速度の季節変化とよく一致した。 3)年輪要素クロノロジーとCO2フラックス観測データ間の回帰分析を行った。この際,移動相関法を用いることにより,最も影響を及ぼす時期の特定を行った。早材幅と当年4-6月の総光合成量(GPP)との間で最も高い正の相関が認められた。 4)生態系モデルの感度実験を行うとともに、幅広環境傾度に対応したフラックス観測値によってモデルの検証を行った結果、モデルは特に夏季の猛暑の影響を過大評価する傾向にあり、この点を改善する必要があることが示唆された。なお、肥大成長と相関がある春先のGPPについては概ね良好に再現されていた。 5)信州大学手良沢山演習林において,ヒノキ若齢木を対象に,異なる季節に13CO2を光合成により吸収させ,完成した年輪内の炭素安定同位体比変動を測定することにより光合成生産物配分の季節変動を観測した。形成層活動開始前に光合成により固定された炭素は多少のラグを持って幹に転流され,木部形成に使われること,年輪前半部の形成に殆どが使用され,後半部には用いられないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
岐阜大学高山試験地においては,年輪気候学的解析,フラックス観測,スギ光合成速度観測,形成層活動観測とも継続して観測を行った。計画通りの進行である。 さらに,各観測・解析項目であきらかにされた環境等について相互比較を行い,スギについては,前年成長期の気温や降水量,当年成長開始前の気温が光合成生産量に影響し,その結果として早材幅が変動することにより肥大成長量や年輪重量が変動する可能性が高いことが示唆された。一方,従来予想されていた夏期の水ストレスの影響について,過大評価されている可能性があることが指摘された。また,13CO2ラベリング実験の結果,春の光合成生産物が前年の年輪に用いられている可能性が示唆されるなど,従来の常識を覆す知見が得られた。 温帯生針葉樹の肥大成長変動予測をするための最も主要な要素との関係を定量的に表す道筋を示すことが出来た点において,順調に目標を達成できていると言える。加えて,従来大きな影響を及ぼすと考えられてきた夏期の気温や水ストレスとの関係を見直す必要があること,光合成産物の転流をモデルに組み込むことができる可能性を示したことは,科学的に大きな進歩であるといえる。 また、アウトリーチ活動の一環として、平成28年11月に岐阜県高山市で開催された岐阜大学フェアの一般向け模擬講義において、本研究の一部を紹介した。 以上の観点より,予定していた内容は,おおむね達成したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,設定した観測項目について,連続的な観測を継続する。形成層活動については,高山試験地,手良沢山演習林,奥多摩演習林においてデンドロメータによる測定を継続する。3年間での違い,地域での違いを比較検討する。日変化のパターンにより形成層活動の再開時期,停止時期の判定に有効か検討をおこなう。 個葉光合成速度観測においては,高山試験地においてスギ針葉の生化学パラメータの季節変化を1月から5月まで測定し,スギ個葉光合成の季節変動および年間光合成量をモデルシュミレーションによって推定する。成長開始期の光合成量の重要性が明らかになってきた中で,この季節の生化学パラメータの変動観測は重要である。 信州大学構内演習林においてスギを対象に異なる季節に13CO2を光合成により吸収させ,完成した年輪内の炭素安定同位体比変動を測定することにより光合成生産物配分の季節変動を観測する。光合成産物の転流速度や季節変動パタンをあきらかにすることにより,生態系モデルと樹木年輪構造の変動を説明出来るモデル作成を試みる。 高山試験地においては、タワーCO2フラックス観測を引き続き継続する。夏季の猛暑の影響についても考慮できるように生態系モデルを改善し、年輪解析の結果との整合性を得る。改善されたモデルを用いて、炭素動態を再現するとともに、炭素動態の気候変動予測も実施する。 生態系モデルによって得られた知見と、長期タワーCO2フラックス観測、年輪解析の結果を比較し、炭素分配に関するモデル構築と改良を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費謝金について,効率よく測定が進んだため,予想より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度は最終年度に当たるため,H29年度請求額と合わせて成果発表や打ち合わせのための旅費として使用する。
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