28年度はスギ材の香気成分によるラットの生理応答について、電気生理学的なアプローチから検討した。スギ材精油の収率は,天然乾燥および低温乾燥材では0.21-1.16%であり,高温乾燥材では0.015%であった。また,同じ産地のスギ材を,異なる温度条件で乾燥し,採取した精油の分析結果から、天然乾燥材に比べて高温乾燥材では,ジテルペン類を多く含むことが明らかであった。天然乾燥材と高温乾燥材の香りに対する主観評価は大きく異なることがよく知られており,これらの成分の違いの影響が示唆された。ギ材精油を吸入したラットのBAT-SNAおよびGVNAのスパイクヒストグラムの経時変化では、香り刺激を開始してから徐々に,交感神経系活動の活動低下および副交感神経系活動の増加が観察され,交感神経系活動に関しては,約50%の低下が認められた。一方,副交感神経系活動は最大で約120%の上昇が観察された。スギ材精油を嗅ぐことによるリラックス効果と胃腸の活動増加が期待できると考えられた。 上記の結果より,スギ材精油はBAT-SNAを抑制し,GPNA増大させることが示唆されたが,効果が持続しないことがあり,嗅覚刺激方法に問題がある可能性が考えられた。そこで,嗅覚刺激方法を,常に新鮮なにおいを吸入できるようにしたところ,嗅覚刺激中に加えて嗅覚刺激終了後も顕著なBAT-SNAの抑制を示した。これらの結果から,スギ材精油を連続的に吸入することにより交感神経活動の持続的で顕著な抑制を示すことが明らかとなった。
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