細胞壁の構造と性質を調査するため、本研究では走査型プローブ顕微鏡による細胞壁観察を行った。走査型プローブ顕微鏡は次世代の複合型顕微鏡であり、電子顕微鏡を凌駕する超高倍率での形状観察が可能であることに加え、試料表面の物理的な特性による情報を画像として構築することもできる。さらに、電子顕微鏡による観察時に生じる電子線による試料劣化がなく、試料の導電処理も不要なことから、これまでの手法に比べて、より真に近い細胞壁の調査が可能になると期待できる。 細胞壁は、明暗に依存する日周性をもってその成分堆積が行われ肥厚していることが申請者のこれまでの研究から明らかになっている。明期にはセルロースが暗期にはマトリクスが主に細胞壁に堆積する。このような日周性をもって作られた細胞壁の構造と性質を、両者を同時に把握できる走査型プローブ顕微鏡で調査することが本研究の目的である。本年度の成果は、次のようである。 前年度までの成果を発展させて、細胞壁の構成要素であるセルロースミクロフィブリルは位相差が小さく、ヘミセルロースとリグニンからなるマトリクスは位相差が大きいことを確実なものとした。この成果をもって、走査型プローブ顕微鏡で細胞壁の超微構造と性質を同時に可視化できる手法を確立した。 観察する試料表面は平滑である必要があり、ダイヤモンドナイフによる切削が走査型プローブ顕微鏡観察に影響する程度を把握した。 形状像に同心円状の層状構造が観察できることを見出した。また試料に施す前処理によって位相像にも同様な層状構造が観察できることを見出した。申請者は、この構造が日周性によって作られる細胞壁がもる特徴であると考察し、それを解明する研究に取り組む意義があるという確証を得た。
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