再生医療の要である幹細胞培養技術の新戦略として、樹木糖鎖のセロオリゴ糖や生理機能糖のキトオリゴ糖で界面ナノ構造を制御した糖鎖集積バイオインターフェースによる細胞培養を試みた。最終年度は、マウス筋芽細胞C2C12の“分化誘導血清を用いない”細胞融合を検討した。 具体的には、糖鎖薄膜のマイクロパターン化が細胞培養特性に与える影響について、筋形成時の遺伝子発現挙動を詳細に解析した。Myosin heavy chain(MyHC)アイソフォームの遺伝子発現に着目し、マイクロパターン化糖鎖薄膜を用いることで、培養3~5日後にMyHC-2aの発現量依存的な細胞融合の開始が認められた。培養7日後には筋芽細胞同士の融合が起こり、筋管細胞への分化に成功した。この現象は、分化誘導血清を含まない培養条件においても観察されたことから、GlcNAc6集積薄膜が培養細胞の細胞融合に直接働きかける、極めてユニークなバイオ界面効果を見出した。 さらに、筋形成関連遺伝子と細胞接着性タンパク質のアクチンフィラメントの発現挙動を検証した。GlcNAc6集積薄膜では、筋組織特異的遺伝子MyoDの発現が培養初期に上昇し、増殖後は低下した。それと同時にMyogeninの発現が上昇し、アクチンフィラメントの明瞭な配列が起こり、グルコースの取り込みに関与するGLUT4の発現も上昇したことから、筋収縮等が活発になっていることが認められた。これらの結果から、分化誘導血清を含まない培養条件でも、GlcNAc6集積薄膜が筋芽細胞の筋組織への分化誘導と筋管細胞の成熟に関与することを明らかにした。 本研究により、生体外での動物細胞培養におけるオリゴ糖鎖の界面集積構造の重要性が実証された。本成果は、幹細胞の多分化能と自己複製能をマテリアルが制御する未踏領域「グライコナノアーキテクトニクス」の研究基盤の構築につながる成果である。
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