研究課題/領域番号 |
26292108
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研究機関 | 国立研究開発法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
淡路 雅彦 国立研究開発法人水産総合研究センター, 増養殖研究所, グループ長 (20371825)
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研究分担者 |
古丸 明 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10293804)
柿沼 誠 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (60303757)
渡部 終五 北里大学, 水産学部, 教授 (40111489)
木下 滋晴 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (40401179)
舩原 大輔 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (00335150)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 真珠 / アコヤガイ / 外套膜 / 色素 / 細胞移植 / 網羅的発現遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
混合移植による優良形質(色調と巻き)共存の実証:真珠層表層干渉色の異なる2種のピース貝系統から上皮細胞を採取し、様々な比率で混合し真珠核と共に母貝に移植したところ、形成される真珠の表層干渉色および表層真珠層一層の厚みが中間的なスペクトルおよび厚みとなった。
優良形質の発現機構の解明:真珠内部微細構造の解明では、ピースの採取部位と真珠の真珠層一層の厚みおよび黄色度との関連を検討したところ、外套膜縁部からピースを採取すると真珠層一層の厚みが厚く、色線を含む縁膜部から採取すると黄色度が高かった。黄色色素については、真珠層黄色系アコヤガイの貝殻真珠層脱灰残渣から主要成分(E1およびE2)を抽出し、薄層クロマトグラフィーを利用して単離した。これまでの分析によりE1は鉄を主成分とする無機色素、E2はポリアミドを主成分とする有機色素であると示唆されていたため、各主要成分につき鉄イオン検出を行ったところE2は反応陰性であったが、E1は典型的な鉄(Ⅲ)イオン反応を示した。したがってE1は鉄(Ⅲ)として真珠層有機基質中に存在していると考えられた。また,脱灰残渣を陰イオン界面活性剤(SDS)抽出に供したところ,新たな黄色色素が抽出され、電気泳動分析の結果から種々の高分子化合物と結合して真珠層有機基質中に存在している低分子と考えられた.網羅的発現遺伝子解析においては、黄色系真珠産出真珠袋と白色系真珠産出真珠袋間で発現量に明瞭な差が観察される遺伝子が同定された。
人工ピースの開発:人工ピース用薄膜調製技術と薄膜上に外面上皮細胞を塗布する技術については、薄膜調製用の素材を検討したが、どれも真珠袋からの褐色の有機質分泌を刺激し好適な素材が見つかっていない。上皮細胞の伸展、遊走を誘起する細胞外基質等については、創傷治癒過程で働く細胞増殖、細胞外基質遺伝子のスクリーニングを網羅的発現遺伝子解析から進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
混合移植による優良形質(色調と巻き)共存の実証:真珠層表層干渉色の異なる2種のピース貝系統から得た上皮細胞の混合移植により、形成される真珠の表層干渉色および表層真珠層一層の厚みが中間的なスペクトルおよび厚みとなることが明らかになり、おおむね順調に進展している。 優良形質の発現機構の解明:主要成分E1の実体を明らかにすることができた。また新たな黄色色素成分の存在が確認され、その特性の一部を明らかにすることができた。これにより特許出願に到った。また黄色系真珠産出真珠袋と白色系真珠産出真珠袋間で発現量に明瞭な差が観察される遺伝子が同定され、特許出願に到った。以上のように当初の計画以上に進展している。 人工ピースの開発:人工ピース用薄膜調製技術と薄膜上に外面上皮細胞を塗布する技術については、薄膜調製用の素材の選択が難しく、計画よりも遅れている。創傷治癒過程で働く細胞増殖、細胞外基質遺伝子のスクリーニングについては計画よりもやや遅れているが、網羅的発現遺伝子解析の結果が期待できる。
以上3項目を総合して評価すると、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
混合移植による優良形質(色調と巻き)共存の実証:真珠層表層干渉色の異なる2種のピース貝系統から得られる上皮細胞の混合移植において、形成される真珠の真珠層一層の厚み等をさらに詳細に解析し、混合移植の効果を確認する。
優良形質の発現機構の解明:ピース貝や母貝貝殻の真珠層一層の厚さと挿核して得られる真珠の真珠層の厚さに相関があるかどうかを走査型電子顕微鏡で微細構造等を比較して明らかにする。黄色色素の解明では、E1については炭酸カルシウムに三価鉄が取り込まれるメカニズムの解明を目指す。主要成分E2についてはその実体が不明であるため、真珠層黄色系アコヤガイの貝殻真珠層からの抽出・精製を続け、各種分析に必要な量を確保して構造解析を進める。また,新たに存在が確認された黄色色素については、逆相および親水性相互作用クロマトグラフィーなどを利用して分離・精製を進め、化学的特性の解明を目指す。黄色系真珠産出真珠袋と白色系真珠産出真珠袋間で発現量に明瞭な差が観察された遺伝子については、ノックダウン等により貝殻および真珠色調への影響を評価する。
人工ピースの開発:薄膜用素材のスクリーニング法を改良し、薄膜調製に好適な素材を明らかにする。またアコヤガイ体内での薄膜の分解が遅いために真珠袋からの褐色有機質分泌を促す可能性もあるため、細胞の新たな移植法も検討する。上皮細胞の伸展、遊走を誘起する細胞外基質等については、外套膜修復過程で働く細胞増殖、細胞外基質関連遺伝子のスクリーニングと機能解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
黄色系および白色系真珠形成に関わる遺伝子の最終的な同定にやや時間がかかり、27年度中にはそれらのノックダウン等による機能の確認には到らず、28年度に行うこととなったため、関連する遺伝子発現解析に充てる予定の予算を繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
黄色系および白色系真珠形成に関わる遺伝子のノックダウン実験に関連する遺伝子発現解析に使用する。
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