研究課題/領域番号 |
26292109
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (90425421)
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研究分担者 |
小林 亨 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (30221972)
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (40231930)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ティラピア / 性分化 / アロマターゼ / 濾胞刺激ホルモン / gsdf |
研究実績の概要 |
1、濾胞刺激ホルモン(FSH)のティラピア卵巣分化誘導または精巣分化抑制に対する関与:(1)FSH受容体(fshr)プロモーター下流にレポーターを組み込んだベクターを遺伝的雌(XX)に導入し、未分化生殖腺におけるレポーター遺伝子の発現を確認した。未分化生殖腺におけるfshrの発現は示したものの、in situ hybridizationによる発現細胞の特定には至っていない。(2)HEK293浮遊細胞系を利用して作製した機能的ティラピア組換えFSHを高度に精製した。これを用いることで、卵巣および未分化生殖腺においてFSHがcyp19a1a遺伝子の発現を誘導するかどうかを調べることが可能となった。(3)一方、当初の予想とは異なり、翻訳阻害によってFSHおよびfshrダブルノックダウンを施したXX仔魚は全て卵巣に分化した。ノックダウン効果は孵化後10日目まで続くことを確認したが、10日目までの分子的性分化に重要な期間の間、FSHシグナルを抑えても性分化に影響を及ぼすことがないとう疑いが生じた。 2、gsdfの精巣分化誘導機構:(1)HEK293浮遊細胞系を利用して作製した機能的ティラピア組換えgsdfを高度に精製した。これをXX仔魚腹腔に投与することで、dmrt1発現が誘導されるか、また、cyp19a1a発現が抑制されるのかを明らかにすることが可能になった。(2)gsdfとdmrt1の発現細胞をXY未分化生殖腺および精巣において詳細に明らかにした。未分化生殖腺では両遺伝子はPGCを取り囲む同一の支持細胞で発現するが、精巣ではgsdfは表層に近いA型精原細胞周囲支持細胞と輸精管に接する体細胞に発現し、dmrt1は全発達段階の精細胞周囲のセルトリ細胞に発現することを明らかにした。この結果から、gsdfがdmrt1と常に共発現していない可能性が初めて示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、FSHの卵巣分化誘導機構の解析では、レポーター遺伝子を利用したfshr発現細胞を調べるトランスジェニック魚を作製し、レポーター遺伝子が未分化生殖腺で発現していることが初めて確認された。また、機能的ティラピア組換えFSHが高度に精製され、FSHのcyp19a1a遺伝子発現誘導に対する役割を調べるための準備が整えられた。fshrノックアウトティラピアの作製には至っていないが、翻訳阻害によるFSH、fshrダブルノックダウンXXティラピアが卵巣に分化することが初めて示された。 2、これまでに、gsdfの精巣分化誘導の解析では、gsdfが精巣分化誘導に対して十分な因子であることを示した。加えて、機能的ティラピア組換えgsdfを高度に精製することに成功し、その精巣分化誘導メカニズムを調べるための準備を整えた。また、これまで同一細胞に発現すると考えていたgsdfとdmrt1遺伝子が、成熟精巣においては一致しない細胞もあることが新たに解った。この結果から、当初の予想と異なりgsdfとdmrt1の遺伝子発現調節が直列ではなく並列である可能性を考慮して今後の研究を進める必要があると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
ティラピア生殖腺の性分化開始分子機構の解明を目的に、卵巣分化誘導についてはFSHシグナリングとcyp19a1a発現、E2産生の関係に、精巣分化誘導についてはgsdfとdmrt1の関係、精巣分化抑制についてはfshrとgsdf、ならびにE2とgsdfまたはdmrt1の関係に焦点を当てて研究を進める。また、超雄偽雌を作製することでティラピア養殖における安定的全雄生産システムを確立する。 1、FSHシグナリングの卵巣分化誘導または精巣分化抑制に対する関与:(1)XX未分化生殖腺におけるfshr発現細胞を、トランスジェニック魚およびXX仔魚を用いてin situ hybridization法で特定する。(2)ノックダウンに加えて新たにfshrノックアウトティラピアを作製し、ノックダウン魚と同様の結果が得られるかを調べると共に、cyp19a1a、gsdf遺伝子発現に対する影響も明らかにする。(3)精製機能性組換えFSHをXX仔魚に顕微注射し、cyp19a1aおよびgsdf遺伝子発現に及ぼす影響を明らかにする。 2、gsdfの精巣分化誘導機構:精製機能性組換えgsdfをXXティラピア仔魚に顕微注射し、dmrt1およびcyp19a1a発現の変化を調べるとともに、性分化に及ぼす影響を明らかにする。また、未分化XX生殖腺培養に添加し、その機能を明らかにする。 3、昨年作製した、超雄偽雌(YY雌)候補群からYY雌を選抜し、安定的大量YY作製法を確立する。 4、ごく最近、中国西南大学の王徳寿教授がナイルティラピアYY系統の性決定遺伝子がAmhYであることを示唆する論文を発表した。我々が持つXY系統でも同様の多型が存在することを確認した。今後、AmhYと、cyp19a1aまたは、gsdfおよびdmrt1遺伝子発現へのつながりを明らかにする研究を新たに加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
納品が2月に間に合わず3月になった物品があり、その支払いがH28年度4月になったため、H27年の会計に47858円の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度3月納品の物品の支払いがH28年度4月に実施されることで、残額47858円は使用される。
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