研究課題/領域番号 |
26292110
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 徹 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70344330)
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研究分担者 |
酒井 義文 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10277361)
横井 勇人 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40569729)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カレイ類 / 変態 / 色素前駆細胞 / 左右差形成 / 分子制御機構 / 概日リズム / 時計遺伝子 / 発生 |
研究実績の概要 |
ヒラメ・カレイ類の体色は、有眼側が褐色、無眼側が白色で左右非対称であり、この体色の左右非対称性は変態期に黒色素胞が有眼側の皮膚だけに分化することで形成される。本研究では体色の左右差形成の制御機構の解明をめざす。本年度、変態期仔魚の有眼側と無眼側の皮膚をレチノイン酸(RA)存在・非存在下で培養し、色素前駆細胞への影響を調べた。RA非存在下では無眼側皮膚片に色素前駆細胞は出現しないが、RA存在下では24時間培養するだけでdhfr陽性の色素前駆細胞が大量に出現した。これまでの成果を総合すると、色素幹細胞は仔魚期には身体の正中部に分布し、それらは変態期に左右皮膚に遊走する。この時点では、左右差はないが、色素幹細胞から色素前駆細胞への分化誘導因子であるRAが、無眼側皮膚では高発現するcyp26bにより分解される事で、色素前駆細胞の分化が抑制され、体色の左右差が形成されるものと結論される。 種苗生産で高率に発生する無眼側の部分黒化についても解析した。天然で変態したヌマガレイ稚魚でも水槽飼育すると、部分黒化が発生した。従って、部分黒化は、変態の異常に起因するのではなく、無眼側皮膚には何らかの刺激により黒色素胞を分化する性質があることが推定された。また黒色素前駆細胞が鱗を覆う上皮組織と表皮との間に分化することが明らかになった。 概日リズムについて、昨年度までに、海産大型魚類では視交叉上核に時計遺伝子per2による24時間のリズム発信機構が存在することを明らかにした。本年度は、末梢組織でのリズム発信を解析し、末梢組織でもper2の24時間のリズムが発信している事を明らかにした。また末梢組織に、光受容タンパク質であるmelanopsinが発現している事を観察した。melanopsinが末梢のリズム形成に関与し、またその発現が無眼側の部分黒化と関係する可能性が推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予想よりも1年早く、ヒラメ・カレイ類における体色の左右非対称性形成の制御機構の全貌をほぼ解明する事ができた。また本研究により、種苗生産で問題となっている体色異常(無眼側の黒化、有眼側の白化)にクリティカルな時期が、白化は変態初期、黒化は変態クライマックス期にあることが明らかになった。これらの成果は、ヒラメ・カレイ類の種苗生産技術の高度化に貢献するものと期待され、成果は基礎生物学だけでなく、養殖業産業へも貢献できる点で達成度が高いと自己評価している。成果はまとめて、今年度の水産学会のシンポジウムで講演し、その内容は、他の講演とともに単行書として出版される予定である。 変態後に起こるヒラメ・カレイ類の部分黒化は、種苗生産では100%の個体に起こるため、その原因究明が求められている。本年度、黒化を起こす黒色素胞が分化する場所が、鱗と表皮の間にあることを特定する事ができた。またmelanopsinが、黒色素胞が分化する領域に発現している事を観察し、光が黒色素胞分化に関わっている可能性が推定された。また色素分化に伴い、円鱗が櫛鱗に変化することから、色素胞の分化が鱗の形態形成に関わっている可能性が考えられた。これらの現象は色素胞の異所的な分化、骨組織の形態形成への関わりなど、これまで知られていなかった新しい色素胞の機能解明に結びつく可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
体色の左右非対称性形成機構については、どのような仕組みでcyp26bが無眼側に高発現するかを行う。 変態後の無眼側皮膚で起こる部分黒化の発生メカニズムを解明することを目的として、黒色素胞が由来する前駆細胞を特定し、光刺激が黒色素前駆細胞を誘導するシステムを検討する計画である。 概日リズムについては、視交叉上核のリズム発信と末梢のリズムとの関係を検討することにより、魚類の概日リズムの維持機構に迫りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想していた額よりも遺伝子発現解析用試薬類に使用した総額が下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子発現解析用試薬類・投稿論文の英文校正に使用する計画である。
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