現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.吸収型Cs+輸送体の同定。淡水魚のエラや腸は体液の恒常性維持に必要なイオンを吸収するが、K+やCs+の吸収メカニズムは明らかでない。候補となるタンパク質を発現させた卵母細胞の解析から、培地中のK+やCs+により誘起された細胞内イオン濃度変化として、K+, Cs+輸送活性を明瞭に検出することができた。このことは現在解析している候補タンパク質が吸収型K+, Cs+輸送体であることを示唆しており、期待通りの結果となった(未発表)。同時に現在用いているアフリカツメガエル卵母細胞の発現系と電気生理学的手法による活性解析はCs+輸送体の活性検出やその解析に非常に有効であることが示された。2.排出型Mg2+輸送体の活性解析。細胞が細胞質から細胞外にMg2+を汲み出す仕組みは生理学上の重要なquestionであり、世界の様々な研究グループが分子機序の解明を目指している。我々は(i)海水に53 mMものマグネシウムが含まれること、(ii)海水魚は体液Mg2+濃度を約1 mMに維持していること、(iii)海水魚の尿には約150 mMものMg2+が含まれること、(iv)海水魚腎臓の尿細管細胞は尿中にMg2+を分泌する活性を有する事、などの知見から海水飼育したフグの腎臓に着目し、Mg2+排出機構の解析を行った。細菌のMg2+, Co2+の排出に関与するとされるCorCに相同なフグタンパク質(Cnnmファミリー)の解析から、海水飼育したフグ腎臓の近位尿細管細胞の細胞膜上にCnnm3が強く発現することを見出した。これまで様々な手法によりCnnm3のMg2+排出活性の検出・測定を試みたが、発現させたCnnm3の細胞膜への移行は確認されたものの活性測定は不成功に終わっていた。今回Mg2+選択性微小電極を用いてCnnm3を発現させた卵母細胞を解析し、Cnnm3がMg2+排出に関与することを示す活性を検出することができた。その結果、海水魚腎臓による新しいMg2+排出モデルを提案することができた(Am. J. Physiol. 307:R525-37, 2014)。
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今後の研究の推進方策 |
1.阻害剤・ノックダウンによる吸収型 K+, Cs+輸送体のin vivo 解析:今後は淡水魚のエラや腸に発現する吸収型K+, Cs+輸送体の機能を評価するため、ゼブラフィッシュ胚を用いた解析を行う。様々な阻害剤の存在下でゼブラフィッシュ胚を飼育し、飼育水からのK+, Cs+吸収への影響を解析する。次にアンチセンスオリゴヌクレオチドによりK+, Cs+輸送体の翻訳を阻害した変異体を作製し、K+, Cs+吸収への影響を解析する。平成26年度に行ったin vitro解析と合わせて、淡水魚が環境中のK+, Cs+を吸収する分子機序を明らかにする。2.海水魚の腎尿細管によるMg2+分泌の蛍光色素を用いた可視化と分子機序の解明:海水魚腎臓でSO42-やCa2+が管腔側細胞膜(apical膜)から直接尿中に排出されるのと対称的に、Mg2+は細胞内液胞や細胞間間隙に一度蓄えられてから尿中に分泌される。この経路には細胞内液胞に局在するMg2+輸送体Slc41a1や細胞膜の細胞間結合部位基底膜側に局在するCnnm3が関与する手がかりを得ており、その分子機構の解明を試みる。平成27年度は腎尿細管によるMg2+ 分泌能の評価に必要なin vivoの可視化・定量化技術の開発を試みる。平成28年度以降はSlc41a1やCnnm3を欠損したメダカを遺伝子編集技術により作製し、天然海水やマグネシウムを低減させた人工海水への適応能を評価する。
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