研究課題/領域番号 |
26292121
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 芳宏 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40283650)
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研究分担者 |
伊藤 淳史 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00402826)
菊池 智裕 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (20639330)
安岡 健一 大阪大学, 文学研究科, 講師 (20708929)
名和 洋人 名城大学, 経済学部, 准教授 (50549623)
大瀧 真俊 名城大学, 経済学部, 助教 (10781320)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 農業史 / 農業開発史 / 戦後経済史 / 比較社会史 |
研究実績の概要 |
(1)重点となる戦後日本の農業開発事業に関しては、第1に、昨年度より新たに青森県上北パイロットファーム事業の調査に着手した。2016年11月下旬と2017年3月上旬に足立芳宏他が、現地視察のほか、青森県史編纂室、青森県立図書館、弘前大学において資料・文献調査を行った。第2に根釧パイロットファームについては研究協力者の野間万里子が、A農家所蔵の経営関係資料などを入手し入植初期の営農実態の分析に取り組んだ。第3に、アメリカ余剰穀物の受け入れをめぐる日米交渉に関して伊藤淳史が2017年3月にアメリカ国立公文書館新館で史料調査を行った。 (2)日本の内地に関しては、第1に安岡健一が長野県のリンゴ農家を農薬防除技術の受容に関して、2017年3月に同地域で関連史料の調査を行った。第2に、大瀧真俊が、2016年8月に青森県立図書館において三本木地方の戦後開拓事業に関する史料調査を、2017年2月には宮崎県文書センター他において川南地方の戦後開拓事業に関する史料調査を行った。 (3)海外に関しては、西ドイツのエムスラント泥炭地開発入植事業に関して足立が2017年2月下旬にコブレンツ連邦文書館において、また東ドイツの時代のエアフルト園芸に関しては菊池智裕が2016年9月にエアフルト市公文書館において史料調査を行った。さらに戦後アメリカに関しては、研究分担者の名和洋人が、モンタナ州立大学(2016年8月上旬)およびウィスコンシン大学(同年12月中旬)において小麦・トウモロコシの技術開発に関する史料・文献調査を行った。 (4)研究発表に関しては、2016年9月に同志社大学で開催された第14回日中韓農業史学会国際大会(同志社大学)において伊藤と大瀧が、またJSA第21回総合学術研究集会において足立が、関連する内容の研究発表を行った。また研究打合会を2016年8月と2017年2月に京都大学において行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の軸となる戦後農業開発事業史研究に関してはおおむね順調に進んでいると評価する。とくに平成28年度は、当初予定していなかった青森県上北地方の機械開墾事業(上北パイロットファーム事業)に関する調査研究に着手したが、これにより根釧パイロットファーム事業との比較が可能となったことが大きい。すなわち、 両者はどちらも1950年代の世銀借款による農業開発事業として位置づけられたが、上北パイロットファーム事業は、第1に入植対象地だけでも17カ所と分散しており、戦後開拓事業との連続性も非常に強いこと、第2に、その後の経緯において、「むつ小川原開発」等により強制移転を余儀なくされる地区と専業酪農地域(一部は畑作地域)として存続する地区とに明瞭に分岐することを特徴とする。後者は、上北地域が「戦後工業化の北限」と「開拓農業(→構造政策)の模範地域)」という二つの「開発」がせめぎあい合う場所とみなすことを意味する。これらの点で、一体的な酪農専業地域として開発され、1970年代初頭には新酪農村建設事業にダイレクトに接続される根釧パイロットファーム事業とは大きな違いが認められた。さらにた比較対照とした戦後西ドイツのエムスランド農業開発事業の調査からは、ドイツの場合には農村総合開発事業としての性格がより顕著であったことも明確となった。以上から、戦後農業開発事業史の分析にあたっては、戦後工業開発や農村総合開発のありようとの関わりを意識することの重要性が確認された。 本共同研究は、戦後農業技術の社会的受容の解明をテーマとするが、研究の進展のなかで開発事業史分析を深化させてきた一方で、内地農村の近代機械技術受容の点での研究が相対的に手薄になっていた。しかし、今期はこの点で1970年代の長野県のリンゴ農家の農薬防除技術を地域社会がいかに受容していったかを事例分析のテーマとして絞り込むことができた。
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今後の研究の推進方策 |
最後の年であるから、本研究の成果を、冊子体の「研究成果報告書」として論文化し、関係機関に寄贈することを目的とする。あわせてその成果を2018年3月農業史学会もしくは同年5月の日本農業経済学会等で発表する。 重点である北海道根釧パイロットファーム事業の研究に関しては、昨年度につづき現地別海町での聞き取り調査と史料分析を継続するとともに、昨年度に課題としてあげながら完成できなかった「北海タイムズ」「北海道新聞」の掲載記事の整理とファイル化を完成させる(これは別海町郷土資料館などの関係機関に寄贈する)。同じく青森県上北地方の機械開墾事業に関しても、現地での資料収集、関係者への聞き取り、およびその整理と分析を行いたい。これらの背景となる戦後農業開発事業史と戦後農業・食糧政策との関わりに関しては、伊藤淳史が、アメリカ公文書館資料に基づき、PL480によるアメリカ日本農産物市場政策の過程を焦点にその国際的な文脈を明らかにする。 日本内地に関しては、安岡健一が、1970年代の長野県のリンゴ農家の農薬防除技術の地域受容に関して、その実態を明らかにする。また研究分担者の大瀧は、引き続き、青森県の三本木支部と宮崎県の高鍋川南を対象として、戦後畜産発達と戦後開拓の関わり方を分析する。 海外については、西ドイツについて足立が、引き続きエムスランド泥炭地開発事業の現地史料調査と分析を進める。地域実態を詳細に論じるために、在地史料(Kreisarchiv Emsland所蔵アルヒーフ)の調査まで踏み込む予定である。同じく東ドイツについては菊池智裕が学知によるモデル設定とその移植という観点から、エアフルト園芸の発展過程を明らかにする。最後に、名和洋人がアメリカ余剰穀物処理の背景にあるアメリカ小麦・トウモロコシの技術開発のありよう実態解明に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者の野間万里子の妊娠のために(2017年2月に出産)、2016年12月以降に予定していた北海道調査および2017年3月末の関連学会参加のための旅行が取りやめとなった。さらに足立のドイツ調査旅行(2017年2月実施)を、入試採点業務等による時間の制約から、当初予定の2週間から1週間に短縮せざるをえなかった。 収集資料分析のためのパソコン購入、および本科研関連情報収集を目的とする日本農業史学参加のための旅費(研究代表者および複数の研究協力者)を、本科研費ではなく運営交付金により購入した。
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次年度使用額の使用計画 |
9月に北海道別海町における聞き取り於ける調査(複数参加)を追加的に行うこととする。 本共同研究の補論的位置づけとして、20世紀近代農業技術に対する批判的運動としての有機農業技術の史的研究に着手したい。具体的にはドイツ有機農業技術の史的研究をテーマとする御手洗悠紀(京都大学農学研究科博士課程)に研究協力者として本研究組織に参加することをもとめる。そのための現地史料調査(3-4週間程度)の費用として、50万円ほどを見込みたい。
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