研究課題/領域番号 |
26292121
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
足立 芳宏 京都大学, 農学研究科, 教授 (40283650)
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研究分担者 |
伊藤 淳史 京都大学, 農学研究科, 准教授 (00402826)
大瀧 真俊 名城大学, 経済学部, 助教 (10781320)
菊池 智裕 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (20639330)
安岡 健一 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (20708929)
名和 洋人 名城大学, 経済学部, 准教授 (50549623)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 農業史 / 農業開発 / 戦後史 / 比較史 |
研究実績の概要 |
本研究は「農学・農業技術の比較社会史」という観点から、第二次大戦後の農業・農村開発の歴史的過程を実証的に解明することを目的とする。 2017年度は最終年度であるから本共同研究のまとめを行った。共同研究会を8月11日に開催、さらに2018年3月20日付けで中間的な研究成果報告書『農学・農業技術の比較社会史的研究』を発行した。報告書は120部作成し、関連分野の研究者のほか大学図書館など30の公的機関に寄贈した。 共同研究会および報告書の作成を通じて、とくに農業資源開発の「戦時から戦後への史的文脈」を考えるにあたり、①戦時の「構造改善なき農林資源開発」から「戦後開拓から1950年代大規模農業開発事業」へ、②戦時の「人的資源動員への偏倚」から「民主化イデオロギーのもとでの農業技術受容のあり方」へ、③開発対象焦点地域としては、「外地=満州」から「北海道」「東北」(および切り離された「沖縄」)へ、以上の3つの視点を浮き彫りにできた。 また個別の成果として、①根釧PF事業における初期営農実態の分析から、必ずしも初期の経営の優劣がその後の離農に直結しないこと、②1950年代の余剰農産物交渉は、米側よりも日本農政当局の思惑が強く働いており、農業開発資金調達もこの点と深く関わること、③同じく戦後の農業改良普及事業であっても米国占領下の沖縄では内地とは全く異なる別の展開を示したことなどが明らかとなった。また海外については、④戦後アメリカのTVAの窒素肥料の開発過程の分析から、アメリカの化学肥料普及は他国に比べて遅れたこと、かつ作物別にその施肥量の増加に関しては相当の差異があること、さらに⑤ドイツに関してはドイツ有機農業運動の技術史的な分析から、20世紀初頭の土壌学・微生物学の新展開に強い影響を受けていること、また動物観の違いが日本の有機農業運動との明確な相違点として浮かび上がったことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
根釧PF事業について、2017年9月、足立、伊藤、野間ほかにより現地にて豊原地区の入植者3名、および美原地区のヤマギシ会別海実顕場にて聞き取り調査を行った。あわせて釧路市立図書館において『北海タイムズ』の関連記事の収集を継続し、かつ昭和30年~32年分の記事を整理・編集し、別海町郷土資料館ほかに寄贈した。さらに研究協力者の野間が2018年日本農業史学会研究報告会(京都大学)において根釧PF事業の初期営農実態について、その成果を報告した。 日本内地について大瀧が2017年11月に東北農業研究センター図書館ほかにて、さらに2018年1月に宮崎県文書センターほかにて戦後開拓事業に関する史料調査を行った。また徳山倫子が戦後の農村女子教育制度再編に関して大阪府立園芸高校能勢分校に関する史料調査を行い、その成果を学位論文の一部に反映させた(2018年3月学位取得)。アメリカ占領下の沖縄の農業改良普及事業に関しては、研究協力者の森亜紀子が、2017年9月と2018年1月の二度にわたって、沖縄県立図書館・沖縄県公文書館にて史料調査を行った。 海外の戦後農業技術開発に関しては、名和が2017年8月、アイオワ州立大学図書館およびアイオワ州立歴史博物館において「TVAにおける窒素肥料の開発と普及」に関して、Garst社関係文献および化学肥料の業界誌の調査を行った。ドイツに関しては2018年3月に、足立がハノーファー州立文書館他で戦後西独のエムスラント開発事業について、菊池がエアフルト市立公文書館ほかで東独の園芸農場に関する史料調査を行った。さらに研究協力者の御手洗悠紀が2017年9月、オックスフォード大学図書館およびベルリン国立図書館において英独の有機農業運動史に関する史料・文献調査を行った。その成果の一部は、同氏の研究論文「戦間期ドイツ語圏の有機農業」(『農業史研究』第52号)に反映された。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は本科研の最終年度であるが基金の一部の延長申請を行い認められた。これは主として本研究の主要な成果発表として位置づけた日本農業経済学会が、例年と異なり5月開催(北海道大学)となり、その旅費を確保するためである。5月27日に同学会大会の「特別セッション」(タイトル「農業・農村開発政策の比較史的検討―日本(北海道)と西ドイツの戦後経験を中心に―」)として3報告を予定している。 ただし、残された課題も大変多い。上北パイロットファーム事業に関しては初期調査のみに終わってしまった(延長分を利用して6月に調査を継続する予定である)。根釧PF事業ではとくに後発入植の美原地区に関しては協同農場運動のもつ意味が大きかったが(ヤマギシ会会員の入植とも関わる)、この点は明確にできなかった。さらにブルセラ病などの牛疫と獣医学の問題、農地開発機械公団史の分析、東アジアという点では韓国の戦後農業技術と農業開発との関係などはほとんど着手できなかった。なにより現代農学自体に関してまったく議論ができるにいたっていない。今後を期したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
・本科研の研究成果の発表を予定している日本農業経済学会大会(北海道大学)が、例年のような年度末開催ではなく5月26/27日開催となり、そのための旅費を確保する必要が生じたため(旅行者は、足立(報告)、伊藤(報告)、名和(コメンテータ)ほか1名(支援者として研究協力者)の四名分を予定している。) ・3月の予定していた青森県の上北パイロットファームの史料調査が、他の調査と重なり実施できず、これを2018年6月下旬に延長したため。
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