研究課題/領域番号 |
26292136
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研究機関 | 大阪国際大学 |
研究代表者 |
眞鍋 昇 大阪国際大学, その他部局等, 教授 (80243070)
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研究分担者 |
奥田 潔 帯広畜産大学, その他部局等, その他 (40177168)
宮野 隆 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80200195)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 畜産学 / 家畜繁殖学 / 卵子 / 卵胞 / 顆粒層細胞 / アポトーシス / 阻害因子 / 品質評価 |
研究実績の概要 |
前世紀末から今世紀にかけて様々な家畜において発生工学・遺伝子工学技術が編み出されて体細胞核クローン家畜や遺伝子改変家畜などが作出されるにいたってきたが、これらの成功率はいまだにきわめて低い。その原因のひとつに供する卵子(卵母細胞)の品質が低いことが挙げられる。しかし卵子の品質を分子レベルで評価しようとした研究はいまだにほとんどない。哺乳類の卵子は胎児期に体細胞分裂を終えて減数分裂の途中(ディプロテン期)で休眠し、性成熟後に性周期毎に分裂を再開して発育・成熟してから排卵に至る。この過程で不都合な卵子が取り除かれる。本研究は、申請者らが継続してきた卵子の選択的死滅制御の分子機構解明研究の成果を活用して、あらかじめ死滅すべき卵子を判定し、排卵にまで至る高品質なもののみを家畜の発生工学や人間の生殖医療に供し得るようにする技術システムを創出することが目的である。 前年度から引き続いて顆粒層細胞におけるアポトーシスシグナルの阻害因子の発現を指標にすれば卵子の健常度を見極めることができるか否か検討を実証的にすすめた。個々の卵胞を傷つけないように卵巣から実体顕微鏡下に外科的に単離して卵子の健常性、体外授精後の初期胚の発生の正常性、顆粒層細胞における阻害因子の発現レベルとの関連性を調べた。顆粒層細胞における細胞死阻害因子が高発現している卵胞の卵子に由来する初期胚の発生能が高い傾向が認められ、成果を国際学会の招聘講演で発表した。当初、高感度な判定システムの開発と凍結保存・異種移植・遺伝子導入・卵子の体外成熟と体外受精および初期胚の体外培養からなるシステムの統合も進める予定であったが、下記のように研究代表者と分担者の所属先変更が重なったため、進捗状況がやや遅れている状況となってしまった。今後見出した知見を実際の家畜増産に活用できる実用性の高い方策を具現化していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者と分担者ひとりが所属先を変更することが重なったために両者で新たな研究体制の再構築などをしなくてはならなくなったこと、および本研究課題と直接は関連しないものの研究代表者が福島原子力発電所事故後に進めてきている家畜と畜産物への事故由来放射性核種の影響調査において、これまでの本研究による成果を応用して卵子(卵母細胞)の健常性を簡便に評価できる技術の創出が可能か否か調べなくてはならなくなり、当初に予定していた項目のいくつかが実施できなかった。このような理由で、進捗状況がやや遅れている状況となってしまった。 今年度も、初年度から引き続いて卵胞顆粒層細胞におけるアポトーシス阻害因子(cFLIP・XIAP・DcR3)の発現を指標にすれば卵子の健常度を見極めることができるか否か検討を実証的にすすめた。すなわち食肉処理場にて入手した家畜の新鮮卵巣から実体顕微鏡下に個々の卵胞を傷つけないように外科的に単離し、個々の卵胞別に卵子の健常性、その卵子に体外授精を施した後の初期胚の発生の正常性(胚盤胞までの発生率と形態の正常性)、これらとレトロスぺクティブに測定した顆粒層細胞におけるアポトーシス阻害因子mRNAおよびタンパクの発現レベルとの関連性を調べた。顆粒層細胞における細胞死阻害因子が高発現している卵胞の卵子に由来する初期胚の発生能が高い傾向が認められたので例数を増やしている。これら成果を招聘された国際学会で口頭発表した。しかしながら、上述のように高感度な判定システムの開発と凍結保存・異種移植・遺伝子導入・卵子の体外成熟と体外受精および初期胚の体外培養からなるシステムの統合を併行して進める予定であったほとんど実施できなかった。今後本研究にて見出した知見を実際の家畜増産に活用できる実用性の高い具現化策とできるように技術開発に注力する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度:前年度、当初に予定していた高感度な卵子の品質を評価・判定するシステムの開発研究と凍結保存・異種移植・遺伝子導入・卵子の体外成熟と体外受精および初期胚の体外培養からなるシステムの統合がほとんど実施できなかったので、研究の遅れを取り戻すべく注力するとともの、併行して下記の研究を遂行する。 家畜のなかでも主にブタを用いてすすめてきた結果を発展するために引き続き3次卵胞の顆粒層細胞におけるアポトーシス阻害因子の発現が卵子品質の指標となるという仮説が、ウシなどの反芻家畜でも適用できるか否かの検証を進める。そのために顆粒層細胞におけるアポトーシス阻害因子(cFLIP・XIAP・DcR3)の発現レベルと卵子の健常性と体外受精率・初期胚発生の正常性・卵胞液の性状との関連性の精査、卵胞の調製と卵子・初期胚の正常性の評価、顆粒層細胞のアポトーシス阻害因子と性腺刺激ホルモン受容体等の発現との関連性、卵胞液中ホルモン類の測定を行う。アポトーシス阻害因子などの卵巣における発現をブタとウシとで比較し、1次卵胞を豊富に含む卵巣皮質部を細切後ガラス化凍結保存した後異種移植してアポトーシス阻害因子遺伝子強制発現の影響を調べる。並行してアポトーシス阻害因子の発現を調節している分子機構の解明を深めるためにアポトーシス阻害因子の発現調節因子の探索やアポトーシス阻害因子発現の分子制御機構の解明研究を推進する。 平成29年度:最終年度には一層実証的研究に注力する。すなわちアポトーシス阻害因子などを指標として高品質であると評価した家畜卵子と低品質と評価したものとの体外成熟・受精能、初期胚の体外培養・発生能および初期胚発生の正常性を調べて新規に開発した家畜卵子の品質評価法の有用性を確認し、アポトーシス阻害因子の発現を調節している分子機構の解明研究を深めて、簡便かつ高感度な判定システムを開発する。
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