研究課題/領域番号 |
26292137
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松井 徹 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40181680)
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研究分担者 |
友永 省三 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00552324)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 褐色脂肪細胞 / Brite細胞 / ウシ / ビタミンA |
研究実績の概要 |
肥育牛の肥育後期の体重増加は、ほぼ脂肪組織重量の増加に起因する。白色脂肪細胞におけるエネルギー消費は著しく小さいので、肥育に伴って、体重当たりの基礎代謝量は大きく減少するはずであるが、わずかに減少するのみである。つまり、肥育の進行に伴い、基礎代謝は実質的に亢進する。エネルギーを熱として消費する脂肪細胞に褐色脂肪細胞ならびにBrite細胞がある。褐色脂肪細胞/Brite細胞ではUCP1の発現を通して、エネルギーを熱に変える。研究代表者らは、肥育後期のエネルギー利用効率の低下に褐色脂肪細胞/Brite細胞が関与しているとの作業仮説の下、本課題は、その作業仮説の実証を目的としている。 本年度は、ウシ脂肪組織より間質脈管系細胞を単離し、褐色脂肪細胞/Brite細胞への分化に最適条件の確立を試みた。その結果、間質脈管系細胞の単離は腎周囲脂肪よりも皮下脂肪の方が有用であることを明らかにした。また、10% FBS存在下でコンフルエンスに達した後、デキサメサゾン、イソブチルメチルキサンチン、インスリン、インドメタシンならびにトリヨードサイロニンで2日間培養し、その後、インスリン、トリヨードサイロニンにロシグリタゾンを添加して分化させるとUCP1発現が最も高くなった。一方、レチノイン酸は、ロシグリタゾン誘導性のUCP1発現を抑制した。また、褐色脂肪細胞で高発現するPGC-1αやCIDEAの発現もロシグリタゾン処理により高くなったことから、この条件が皮下脂肪由来の間質脈管系細胞の増殖ならびに脂肪細胞分化を行える条件と考えられた。また、間質脈管系細胞由来の脂肪細胞に対する24時間までのフォルスコリン処理はUCP1発現を増加させることも明らかにした。 また、以前の研究で得た肥育牛の脂肪組織サンプルの解析を通して、肥育牛の褐色脂肪細胞/Brite細胞分化にBMP経路が関与している可能性を示唆した (Livestock Science, 174: 144. 2015)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね当初予定していた計画通りに進んでいる。研究実績の概要に記したように、褐色脂肪細胞/Brite細胞の分化条件を見出した。 また、当初の計画にはなかったが、以前の研究で得たサンプルを用いて予備的に下記の検討を行った。すなわち、以前の研究において、ビタミンA制限慣行飼料給与牛の腸間膜脂肪における褐色脂肪細胞関連遺伝子群の発現は、高ビタミンA含有TMR飼料給与牛に比べて高いことを見出している。その原因を探るため、マウスやヒトの褐色脂肪細胞/Brite細胞分化を制御することが示唆されているBMP経路の遺伝子発現を調べたところ、慣行飼料給与牛の腸間膜脂肪ではBMP経路を構成する因子群の遺伝子発現が高く、肥育牛の褐色脂肪細胞/Brite細胞分化にBMP経路が関与している可能性を示唆した (Livestock Science, 174: 144. 2015)。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた成果を受けて、当初の計画に沿って、ウシ脂肪組織から褐色脂肪細胞/Brite細胞のさらに効率的な分化条件を見出すとともに、レチノイン酸がBrite細胞の活性に及ぼす影響のメカニズムを検討する。Brite細胞の活性評価の一つにUCP1遺伝子発現を予定しているが、ウシUCP1遺伝子の構造に関して、現時点では未知な点が多い。例えば、ウシUCP1遺伝子に関して、そのmRNAはゲノム配列上推測されているものの、遺伝子の全長を単離した例すらない。ウシUCP1遺伝子の単離ならびに機能解析についても、今後、検討を加える。 マウス褐色脂肪細胞分化において、PRDM16はマスターレギュレーターとして機能することが明らかにされている。そこで、分化させた褐色脂肪細胞/Brite細胞のUCP1およびPRDM16抗体を用いた免疫染色を行い、蛍光顕微鏡下で観察する。UCP1およびPRDM16の共在性を解析することによって、肥育牛脂肪組織における褐色脂肪細胞/Brite細胞の起源を明らかにする。「UCP1陽性/PRDM16陽性褐色脂肪細胞/Brite細胞」なのか、「UCP1陽性/PRDM16陰性褐色脂肪細胞/Brite細胞」なのかを明らかにすることにより、肥育牛脂肪組織におけるBrite細胞の起源を探る。 予備的検討では、ビタミンA制限慣行飼料給与牛とビタミンA含量が高いTMR飼料給与牛の比較を行ったが、同じ飼料を給与した肥育牛をビタミンA補給区と対照区に分け、肥育牛におけるビタミンA制限が脂肪組織における褐色脂肪細胞関連遺伝子群の発現に及ぼす影響を正確に検討することにより、in vivoにおけるレチノイン酸の褐色脂肪細胞/Brite細胞の機能制御における役割を推察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウシ脂肪組織からの間質脈管系細胞の単離に要する期間が予想以上にかかったので、分化条件の確立の検討に関するトライアンドエラーの繰り返しが当初予定していた回数よりも少なかった。また、同等品が複数の試薬メーカーによって販売されている場合は、必ず、より安価なものを選択するなどの工夫を重ねた結果、繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の計画に従って、研究を推進する。研究初年度後半には、間質脈管系細胞を用いた分化条件の確立もめどが立ったので、次年度は、より多数の分化試験を行うことができると考えられる。より多くの実験の遂行によって、研究はより良質になるので、次年度も研究初年度同様に、節約とより多くの実験を心掛けて研究に臨む。
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