研究課題/領域番号 |
26292140
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
松川 和嗣 高知大学, 教育研究部総合科学系, 准教授 (00532160)
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研究分担者 |
市川 明彦 名城大学, 理工学部, 准教授 (20377823)
赤木 悟史 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (70414696)
及川 俊徳 宮城県畜産試験場, その他部局等, 研究員 (70588962)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | フリーズドライ / 核移植 / 顕微授精 / ウシ |
研究実績の概要 |
本研究では、ウシFD体細胞のDNA損傷細胞数を調査し、フリーズドライ (以下、FD) 細胞の核移植を実施した。次に、FD後に細胞内に存在するタンパク質の同定をおこなった。最後に卵丘卵母細胞複合体の形態の違いが核移植後の発生能に与える影響を検討した。その結果、DNA損傷細胞の割合は、FD直後では2%、FD後1年では10%となった。FD後に存在するタンパク質はビメンチン等の細胞骨格タンパク質であった。培養細胞およびFD直後、FD後1週間、1ヶ月間および1年間保存した細胞を用いた核移植での卵割率はそれぞれ50、52、50、50、49%、胚盤胞発生率は25、15、17、16、15%となり、それぞれ有意な差は認められなかった。卵丘細胞が緊密に付着および膨潤した卵丘卵母細胞複合体それぞれの核移植後の卵割率は51および90%、胚盤胞発生率は15および40%となり、卵丘細胞が膨潤した卵丘卵母細胞複合体が有意に高い割合となった。 さらに、ウシ精子のFD条件を検討したところ、8 mM L-グルタチオンで10分間前処理を行い、50 mM NaCl、50 mM EGTA、10 mM Tris-HCl (pH 8.0) の凍結乾燥液に浮遊したFD精子の顕微授精によって胚盤胞の作出が可能となった。 以上本研究より、FD体細胞及び精子を用いて効率的に胚盤胞を作出する技術を開発することが可能となった。特に、体細胞では1年間の保存期間でも作出効率が低下しないことから、FD後の体細胞の核DNAが長期間その発生能を維持できることが明らかとなった。また、FD後に発現量が増加するタンパク質は細胞骨格系のものであることが判明し、これらの利用による常温保存の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はフリーズドライ体細胞および精子による効率的な胚盤胞作出技術の開発に重点を置いたために、胚の解析、胚移植試験、および自動化技術の開発がやや予定よりも遅れている。しかし、本年度の試験によって効率的な胚作成技術が開発されたために、今後、研究計画の遂行が加速することが見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
①細胞FD技術の最適化の検討:前年度に引き続き、長期常温保存を実現するFD技術を開発する。②FD細胞由来胚の効率的な作出法の検討:卵子へ体細胞および精子を注入する制御システムの構成を最適化し、作製したデバイスを用いてシステムを構築する。③FD細胞由来のウシ胚の評価:高品質胚の評価法を開発し、FD体細胞による核移植胚およびFD精子による顕微授精胚における正常発生胚の作出条件を検討し、胚移植前の胚の選抜に利用する。④FD細胞由来のウシ胚の移植・産子の評価:核移植および顕微授精で作出した胚盤胞を随時受胚雌へ移植する。核移植後の初期化機構は未だ解明されておらず、体細胞核移植由来の産子生産は低率である。移植した胚に対する産子の割合は一般的な動物では2~3%であるが、ウシでは5~20%と他の動物よりもクローン生産効率が高い。しかし、FD細胞をドナー細胞として用いることでDNAへの損傷が少なからず存在し、またクローン作出に必要な核の初期化が卵細胞質内で十分に行われないことも予想され、これらのことが原因で産子に結びつかない可能性が考えられる。そこで本年度は特に③の正常性の評価に重点を置き、正常な産子の生産を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
胚移植に供試する受胚牛が、計画的に準備できずに予定していた回収の移植試験が実施できなかったため
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次年度使用額の使用計画 |
受胚牛を確保し、胚移植試験の実施を計画的に実施する
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