研究実績の概要 |
本研究では経済動物であるウシを対象として、①胚によって子宮内膜で発現が誘導される遺伝子(胚性シグナル応答遺伝子)の解析、②その遺伝子発現を誘導する胚性分泌因子の同定を目的とする。 平成27年度に、妊娠18日目のウシ伸長期胚の胚性分泌因子についてLC-MS/MS法で解析した。その結果、分泌性因子の特徴であるシグナル配列を有する159個の因子を同定した。さらにこれらの因子についてIPAのデータベースを用いた解析を行い、6個のサイトカイン(IFNT, IFN-tau-c1, FAM3C, MYDGF, AIMP1, MIF)と2個の成長因子(GRN, HDGF)が特定された。これらの因子は、IFNT以外の全ての因子の遺伝子が子宮内膜でも発現していた。さらに、着床期子宮内膜で発現が上昇する遺伝子について、IPA解析により上流因子の検索を行ったところ、IFNT に加えてMIF(マクロファージ遊走阻止因子)が制御していると想定される遺伝子の発現が着床期子宮内膜で上昇していた(P<0.05)。MIFの受容体であるCD74の遺伝子は胚では発現しておらず、着床期子宮内膜で発現が上昇した(P<0.05)。 IPA解析により、着床期子宮内膜で発現が上昇するMIF下流因子として、ARG1、CCL2、IL7、IL23Aが特定された。これらの因子の発現に対するリコンビナントMIF(rMIF)およびIFNTの影響について、培養ウシ子宮内膜上皮細胞を用いた解析を行った。その結果、rMIF添加区において IIL23Aの遺伝子発現が有意に上昇した(P<0.05)。IIL23Aの遺伝子発現上昇はIFNT添加区では認められなかった。 これらの結果から、IFNT 以外の胚性分泌因子としてMIFが着床期子宮内膜機能を制御している可能性が示唆された。
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