研究課題/領域番号 |
26292152
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
山手 丈至 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50150115)
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研究分担者 |
竹中 重雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (10280067)
桑村 充 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (20244668)
井澤 武史 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (20580369)
秋吉 秀保 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (50420740)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 病理学 / 線維化 / マクロファージ / 筋線維芽細胞 / 難治性疾患 / 臓器横断的解析 / 腎線維化 / 肝線維化 |
研究実績の概要 |
未だ治療法が確立されていない難治性線維化の発生機序をマクロファージ-筋線維芽細胞の相互関連: M-M axis」の特性に基づき、臓器毎に生じる線維化(腎線維化、肝線維化/肝硬変)の発生機序を比較解析し、難治性線維化の新たな治療法を探索することを目的とする。以下の成績を得た。1.シスプラチン誘発腎線維化でのマクロファージの特性を解析したところ、 CD68発現M1マクロファージとM1関連因子(IFN-γ,TNF-α,IL-6)が、投与後初期に増加し、線維化の進展に伴い減少した。一方、CD163発現M2マクロファージは、線維化の進行に伴い増数した。M2関連因子であるTGF-β1はM2マクロファージ増加とほぼ一致した。2.チオアセトアミド誘発肝線維化では、投与初期において、M1マクロファージ誘導に関わるINF-γ、TNF-α、IL-6と、M2マクロファージ誘導に関わるIL-4の発現が、肝細胞傷害に先立ちすでに増加していること、この初期反応に続いて、CD68発現M1マクロファージとCD163発現M2マクロファージが、肝小葉中心部の傷害部位に誘導され、それに一致してTGF-β1やIL-10が産生されることが分かった。3.チオアセトアミド誘発肝線維化モデルを用いて、GFAP発現の筋線維芽細胞の動態を検討した。筋線維芽細胞は、肝線維化の形成に伴い徐々に増加し、ビメンチン、デスミンそしてα-SMAなどの細胞骨格を様々な割合で発現するとともに、GFAPを共発現することが分かった。4.α-Naphthylisothiocyanate投与による胆管線維症におけるマクロファージ機能と筋線維芽細胞の特性を解析した。その結果、投与後MHCクラス II発現マクロファージが初期から後期まで増加し、CD68とCD204発現マクロファージがやや遅れて増加し始めることが分かった。また、筋線維芽細胞は、前半はビメンチンとデスミンを、後半からはα-SMAを発現することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝と腎のラット線維化モデル動物の作製に成功し、病変部位に出現するマクロファージと筋線維芽細胞の特性を解析しつつある。マクロファージについては、肝小葉中心部の傷害とグリソン鞘の胆管上皮傷害における特性をM1/M2マクロファージ分極化の観点から解析し、肝組織の傷害部位(肝小葉中心とグリシン鞘)に出現するマクロファージの特性が異なることを明らかにすることができた。また、筋線維芽細胞については、グリア線維性産生蛋白GFAP発現の肝星細胞との関連を明らかにすることができた。このように、当初立てた実験計画に沿って研究は順調に進んでいるが、一部、別の抗体を用いた肝線維化に出現するマクロファージ機能特性の解析や、筋線維芽細胞の上皮-間葉転換(由来)に関する解析が終わっていない(次年度に実施する)ことから、「概ね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成績に基づいて、さらに研究を発展させる。特に、シスプラチン誘発腎線維化とチオアセトアミド誘発肝線維化/肝硬変のラットモデルを作製し、マクロファージと筋線維芽細胞の性状を中心に解析を行う。1.マクロファージの機能特性と誘導因子の解析として、出現するマクロファージを病期毎に解析する。特に、M1マクロファージ発現のCD68とM2マクロファージ発現のCD163に加え、MHCクラスII、CD204、Gal-3、Iba-1の発現状態を免疫組織化学的に、かつこれらの抗原の重複性を蛍光二重免疫染色法により解析する。この解析には、M1/M2分極化の概念を用いて、マクロファージ特性を詳細に解析する。2.マクロファージ枯渇実験として、特にチオアセトアミド誘発肝線維化モデルを用いて、クッパー細胞をアポトーシスで枯渇させるクロドロネートを投与し、形成される線維化病変を「1」と同様に解析する。3.筋線維芽細胞の形成・誘導因子の解析を行う。特に、腎線維化におけるTGF-βと骨形成因子の発現に着目する。これらの因子に対する抗体を用いて免疫組織化学的に発現細胞を同定するとともに、mRNAレベルでの発現を解析する。また、肝線維化/肝硬変では、筋線維芽細胞と体性幹細胞との関連を、体性幹細胞を同定するA3抗体、さらに未分化幹細胞を認識するThy-1、そして他の幹細胞認識抗体(CD34、CD133など)を用い、その発現を免疫染色と二重蛍光免疫染色で解析することで、筋線維芽細胞の起源と特性を解明する。 成果として、1.チオアセトアミド誘発肝病変(肝線維化/肝硬変)については、マクロファージ機能を中心とした内容を、また、2.肝硬変については、筋線維芽細胞の起源に関する内容を、3.腎線維化については、M1/M2マクロファージとリンパ球との関連を中心とした内容を、学会発表や論文として公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
チオアセトアミド誘発肝線維化とシスプラチン誘発腎線維化モデルに加え、Dibutyltin Dichloride誘発膵線維化とイソプロテレノース誘発心筋線維化モデルを作製し、マクロファージと筋線維芽細胞の特性を、臓器横断的に解析する予定であったが、当該年度は肝線維化と腎線維化の解析が主体となり、時間的に膵線維化と心筋線維化のモデル動物を作製し、解析することができなかった。また、肝線維化と腎線維化の解析においては、マクロファージに発現するCD68(M1マクロファージ)とCD163(M2マクロファージ)以外の異なる数種類の抗原に対する抗体や、筋線維芽細胞では体性幹細胞との関連を幹細胞認識抗体を用いて解析する予定であったが、年度内に終えることができず、次年度にこれらの抗体試薬や関連する因子の試薬を購入することとした。動物購入や高価な試薬購入に関する予算を次年度使用とした。
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次年度使用額の使用計画 |
動物実験としては、シスプラチン誘発腎線維化とチオアセトアミド誘発肝線維化のラットモデルを作製し、マクロファージと筋線維芽細胞の特性を、これらの機能に係わる因子を含めて、さらに詳細に解析する。また、これらの肝と腎線維化モデルでは、マクロファージを枯渇させる実験を組み、マクロファージと筋線維芽細胞との関連を解析する。また、Dibutyltin Dichloride誘発膵線維化とイソプロテレノース誘発心筋線維化モデルも作製し、マクロファージと筋線維芽細胞の特性を同様に解析する。このような動物実験や試薬等は高額であることから、次年度に繰り越した予算は、このような物品の購入に充てる。また、有意な成果がでているので、国内や国際学会に積極的に参加し、得られた研究成果を発表し、かつ関連する研究者との意見交換を行うことで、この課題のさらなる展開を図る。このような出張にも、予算を支出する予定である。
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