研究課題
腫瘍に対する化学療法に限界をもたらす主な要因として化学療法耐性が挙げられる。犬のリンパ腫における化学療法耐性化のメカニズムを理解するためには、より広範な分子(機構)について解析することが必要と考えらる。本年度は、一定のサブタイプ(B細胞性高悪性度多中心型リンパ腫)に罹患した症例に由来する化学療法感受性期および化学療法耐性期の腫瘍細胞を用い、両者の遺伝子発現プロファイルを網羅的に比較解析することとした。全10症例の感受性期および耐性期サンプルにおける遺伝子発現量の変化をcDNAマイクロアレイで解析した結果、感受性期と耐性期で有意に発現量が異なる58の遺伝子が抽出された。これらのうち、3遺伝子は耐性期に発現量が上昇しており、55遺伝子は耐性期に発現量が減少していた。このようにして抽出された遺伝子についてIngenuity Pathway Analysis (IPA)を行ったところ、感受性期と比較して耐性期において不活化されていた41の機能タームのうち、15ターム(37%)が白血球の活性化・動員・脱顆粒等に関連するタームであった。また、抽出された遺伝子のうち、耐性期サンプルにおいて特に大きな発現低下が認められた遺伝子には、CXCL8, FCER1Aといった免疫応答や炎症反応に関与する分子の他、アポトーシスの促進に関わるPDK4, ANKRD2が含まれていた。今回解析したB細胞性高悪性度多中心型リンパ腫において、化学療法耐性期には免疫応答や炎症反応の活性低下が起きていることが示された。これまでの人医学領域における報告では、腫瘍の微小環境における免疫応答活性化が化学療法剤に対する良好な反応性と関連することが示されている。このことから、人と犬の両種において化学療法感受性を規定する機構が類似している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
犬のリンパ腫における薬剤耐性機構について、マイクロアレイ解析を用いた網羅的解析により、免疫応答や炎症反応に関与する分子の他、アポトーシスの促進に関与する分子の発現変化を明らかにすることができた。平成28年度には、当初の研究計画通り、薬剤耐性に関与する遺伝子発現パネルの臨床例への応用を予定している。
平成28年度には、薬剤耐性に関与する遺伝子発現・変異パネルの臨床的有用性に関する検討を実施する予定である。前年度までの研究で明らかとなった薬剤耐性獲得に伴って発現量が変化する遺伝子(群)を搭載したマイクロアレイを作製し、犬のリンパ腫および肥満細胞腫由来サンプルの解析結果とそれら症例の薬剤感受性/耐性の形質との関連を検討し、本研究を通して得られた遺伝子発現パネルの薬剤感受性予測における有用性を明らかにする。同様に、薬剤耐性獲得に伴って変異が認められる遺伝子(群)に関してもパネルを作製し、その薬剤感受性予測における有用性を明らかにする。さらに、これら遺伝子発現・変異パネルによる検査結果を基にして抗がん剤・分子標的薬剤の選択を行い、その臨床的有用性の検証を行う。
結果を得るために実施したマイクロアレイ解析の実施回数が予定よりも少なく済んだため。
症例の薬剤耐性に関わるマイクロアレイ解析解析を実施する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (2件)
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