研究課題
本研究では、家畜胚の組織分化を制御する因子の同定とその機構解明を目的としている。本年度は、ウシ胚の胚盤葉上層/原始内胚葉の分化を制御する分子基盤の解明を目的に、RNA干渉法を用いたFGF4の発現抑制実験を行い、FGF4の機能解析を試みた。実験に用いたウシ胚は、食肉処理場由来のウシ卵巣から卵子を吸引採取し、20時間の体外成熟の後、体外受精を行うことで得た。体外受精胚を培地中で最長8日間培養し、8細胞期から脱出胚盤胞期にかけての6つの発生ステージにおいてRNAサンプルを収集し、FGF4 mRNAの発現量解析を行った。ウシ胚に対するFGF4の発現抑制は、1細胞期胚の細胞質内にFGF4発現抑制用のsiRNAを注入することにより実施した。処理区は、FGF4発現抑制区の他に発現抑制効果のないControl siRNAを注入した区、およびsiRNA未注入区の計3区を設定した。FGF4発現抑制による初期発生への影響の他に、桑実胚および胚盤胞期胚を対象に、NANOGおよびGATA6発現への影響についても検討した。ウシ胚において、FGF4 mRNAの発現は16細胞期までは認められず、桑実期以降の発生ステージにおいてのみ認められた。また、FGF4発現量は桑実期において高い値を示したが、拡張胚盤胞期において一旦有意(P<0.05)に低い水準まで低下し、脱出胚盤胞期にかけて再び桑実期と同等の水準まで上昇した。FGF4の発現抑制は、ウシ胚において胚盤胞期への発生を阻害した。桑実胚および胚盤胞期胚においてNANOGおよびGATA6発現量を解析した結果、FGF4 siRNA区のNANOG発現量はControl siRNA区と比較して有意(P<0.05)に高く、またFGF4 siRNA区のGATA6発現量はsiRNA未注入区と比較して有意(P<0.05)に低かった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ウシ初期胚の発生および組織分化を制御する因子としてFGF4に着目し、本因子の胚発生および組織分化への影響を明らかにすることができた。
今後の研究として、ブタ胚におけるTEAD4が胚発生および組織分化におよぼす影響について明らかにする。さらにTEAD4を制御する因子としてYAPに着目し、YAP発現の人為的制御がブタ胚の発生および組織分化におよぼす影響について検討する。
計画ではH28年度に網羅的な遺伝子発現解析を行う予定でDNAマイクロアレイの購入費を見込んでいたが、網羅的遺伝子発現解析は次年度に実施することになったため。また、次年度に蛍光免疫染色用の特異的抗体を購入する必要があり抗体購入費を確保する必要があるため。
上記したように、次年度に行う網羅的遺伝子発現解析用のマイクロアレイおよび各種アッセイ用の特異的抗体の購入に充てる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Journal of Reproduction and Development
巻: 62 ページ: 401-408
Cellular Reprogramming
巻: 18 ページ: 309-318