研究課題
ショウジョウバエではlet-7 miRNA が、精巣の適切な性分化や性成熟に必要であり、雌雄の性腺で最も発現量に差のあるmiRNAである。カイコでも、let-7 の発現には雌雄差がある。興味深いことに、カイコの雄化遺伝子の1つであるImp は、ヒトやショウジョウバエにおいて、let-7による発現抑制を受ける。以上の事実から我々は、カイコのlet-7 も性決定や性分化に関与しているのではないかと考えた。まず、カイコでもlet-7 がImpの発現を抑制しているか否かを調べるため、卵巣由来のBmN細胞と雄の胚子由来のM1細胞を用いた解析を行った。これらの細胞におけるlet-7 の発現を調べたところBmN細胞ではmature なlet-7が、M1細胞ではpri-mature なlet-7が発現していた。このことより、BmN細胞ではlet-7 がImpの発現を抑制している可能性が示唆された。そこで、let-7をノックダウンするため、anti-let-7 LNAをBmN細胞に処理したところ、matureなlet-7が減少し、pri-mature なlet-7が出現することわかった。このlet-7のノックダウンが実際に標的遺伝子の発現量に影響を及ぼし得るかを確認するため、let-7の標的として知られているBmFtzF1及びBmEF74のmRNA量を定量したが、有意な変化は認められなかった。IMPタンパク質の発現レベルをwestern blottingにより調べたが、let-7ノックダウンによる変化はみられなかった。カイコの性決定に関わる他の遺伝子(Fem、Masc、Bmdsx)の発現量についても調べたが、やはりlet-7ノックダウンによる影響はみられなかった。let-7をノックダウンしても、let-7の既知の標的遺伝子の発現量が変化しなかったことから、今後培養細胞を用いたlet-7ノックダウンアッセイ系には条件検討が必要であるといえる。一方、カイコの性決定時期にある胚子のmiRNA-seqを行ったところ、発現量に性差を示すmiRNAがみつかったため、現在これらのmiRNAについて解析を進行中である。
2: おおむね順調に進展している
Imp は、ヒトやショウジョウバエにおいてlet-7による発現抑制を受ける。一方、我々はカイコのImpの3’UTRにlet-7のseed配列と相補鎖を成す配列を見出している。Impはカイコのdsx(Bmdsx)の性特異的スプライシングを雌型から雄型にシフトするために必要な因子であり、雄分化に関与するとされている。我々は、miRNAがカイコの性決定に関わる可能性を検証するため、カイコにおけるlet-7とImpとの関連性について調べることにした。当研究室において継代している雄胚子由来NIAS-Bm-M1と卵巣由来BmN細胞におけるlet-7の発現について調べたところ、注目すべきことにNIAS-Bm-M1細胞にはmature formが存在せず、BmN細胞にのみlet-7 mature miRNAが発現することが判明した。この発見により、これらの培養細胞はlet-7の機能を解析する上で優れたアッセイ系として利用できることがわかった。しかも、anti-let7 LNAをトランスフェクションするだけで簡便且つ完全にlet-7の発現を抑制できることも判明した。この培養細胞とLNAを用いたノックダウンを併用したlet-7アッセイ系を構築することにより、let-7とIMPタンパク質の発現量、及びそれ以外のカイコの性決定に関わる遺伝子(Fem、Masc、Bmdsx)の発現量についての関連性について次々に調べ上げることができた。しかし一方で、このアッセイ系を利用してもlet-7の既知の標的遺伝子の発現量を変化させることができていないことも明らかとなり、今後更なる条件検討が必要となる。従って、研究は順調に進んでいるものの、克服すべき課題が残された状態にあるため、現時点での研究進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断することにした。
培養細胞を用いたlet-7ノックダウンアッセイ系について、条件検討を行う。このために、既に標的遺伝子が同定済みのいくつかのmiRNAについてLNAを用いたノックダウンを行い、標的遺伝子の発現に及ぼす影響について確認する。一方で、カイコの卵を用いたmiRNAノックダウンアッセイ系の構築にも注力する。具体的には、上述の培養細胞を用いたアッセイ系に供試したLNAをカイコの受精卵に顕微注入し、miRNAのノックダウンが可能であるか確認すると共に、それらの標的遺伝子の発現や胚子の表現型に及ぼす影響についても調べる。また、カイコの性決定時期におけるmiRNAを次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析し、雌もしくは雄で特異的に発現するmiRNAを探し出す。それらのmiRNAについてLNAプライマーを用いたqRT-PCRを行い、実際に雌雄差が認められるか定量する。明確な雌雄差が確認されたmiRNAについては、胚子期から成虫に至る発育ステージ及び各種組織における発現プロファイルを明らかにし、雌雄差がどのように変化するか捉える。一方で、これらmiRNAの性特異的発現が性決定カスケードの支配下にあるかどうかを確認するため、既知の性決定遺伝子(Fem、Masc、Bmdsx)をノックダウンした際におけるこれらmiRNAの発現量の変化について調べる。また、targetscan及びRNAhybridを用いてこれら性特異的miRNAの標的遺伝子の候補を探索する。その後上記のノックダウンアッセイ系を利用し、これら性特異的miRNAの発現をノックダウンすることにより、標的候補遺伝子の発現に変化が認められるか否かを調べることで、性特異的miRNA-mRNAネットワークを明らかにする。
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