研究課題
これまでに,NPV感染によって全タンパク質合成停止となるカイコ細胞で,リボソームRNA(rRNA)が分解減少することを明らかにし,全タンパク質合成停止の原因であることを示唆した.さらに,NPVのp143遺伝子によりrRNA分解が誘導されることを明らかにした.今回は,rRNA分解誘導にかかわるAcMNPVのP143(Ac-P143)のドメイン解析をおこなった.全長のAc-P143(アミノ酸残基1-1221)を一過性発現することによって,カイコ細胞でrRNAの分解が誘導された.つぎに,Ac-P143の部分欠損体の一過性発現解析を行った.その結果,rRNA分解にはN末端側の配列(1-599)が必要であり,C末端側の配列(600-1221)は関与していないことが示された.さらに,Ac-P143のN末端側の配列を一過性発現させた細胞では,rRNA分解とアポトーシスが観察された.アポトーシス阻害剤を用いてアポトーシスを阻害してもrRNA分解が観察されたことから,BM-N細胞が誘導するrRNA分解はアポトーシス誘導に関連していることが示唆された.これまで,全長のAc-P143と相互作用する細胞因子の探索を行ってきたが,全長のAc-P143の発現量は少なく,ウェスタンブロット法で確認できないため解析が進んでいなかった.今回の結果から,Ac-P143のN末端側の配列(1-599)を用いることによって,ウェスタンブロット法で検出が可能となり,さらにこの配列内にrRNA分解に関わるドメインが含まれていることが明らかとなった.今後は,Ac-P143(1-599)を用いて,相互作用する細胞因子の探索を進める予定である.
4: 遅れている
当初の計画では,全長のAc-P143と相互作用する細胞因子を探索し,相互作用に関わるAc-P143のドメイン解析を予定していた.しかし,全長のAc-P143を一過性発現させたカイコ細胞において,Ac-P143の発現を確認することができず,解析が進んでいなかった.Ac-P143の部分欠損体を用いることで,ウェスタンブロット法による発現が確認でき,発現細胞にrRNA分解およびアポトーシス誘導が観察されたことから,ドメイン解析と並行して細胞因子の探索を進めることができるようになった.免疫沈降法により,候補となる細胞因子を複数種検出することができたので,今後はこの因子の解析を進める計画である.
免疫沈降法により,Ac-P143のN末端側の配列(1-599)と相互作用する細胞因子を複数種検出することができたため,得られた細胞因子の解析を進める計画である.まず,細胞因子のN末端配列を明らかにし,カイコゲノム情報を用いて細胞因子の同定を行う.さらに,細胞因子の全長をクローニングし,Ac-P143(1-599)の相互作用に関わるドメインの絞り込みを行う.これらを手がかりとして,Ac-P143によるrRNA分解の誘導機構の解明を進める.
研究計画の進行が遅れ,予定していた細胞因子のN末端配列解析等の受託解析が間に合わなかったため.また,カイコゲノム情報を利用できるようになり,次世代シーケンサーによる配列解析とデータマイニングを業者に委託する必要がなくなったため.
細胞因子のN末端配列解析等の受託解析および,標的となる細胞因子の抗体作製を計画している.これにより,細胞因子の同定とrRNA分解誘導の分子機構の解析が飛躍的に進むことが期待される.
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