研究課題/領域番号 |
26292175
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
沼田 英治 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70172749)
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研究分担者 |
後藤 慎介 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70347483)
志賀 向子 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90254383)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 昆虫 / 生理学 / 光周性 / 時計遺伝子 / 中枢神経系 / 幼若ホルモン |
研究実績の概要 |
【入力】複眼中央部から脳へ投射する神経経路を突き止めることができた。その結果、視髄中央部を経由して、主に2つの経路は脳の中央部へ、別の2つの経路が対側の視葉へと投射することがわかった。 【ホルモン】チャバネアオカメムシとホソヘリカメムシにおいて血リンパ中の幼若ホルモン(JH)濃度を液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)によって測定した。その結果、チャバネアオカメムシではJHを検出することができたが、ホソヘリカメムシの量は非常に少なく、検出方法の確立には至っていない。 【時計】時計タンパク質PERIODに対する抗体を用いた免疫組織化学を実施したが、概日時計の本体と考えられるPER陽性細胞は見出せなかった。培養脳の光周性を調べる実験では、成虫の脳を複眼とアラタ体がつながった状態で培養することが困難であったため、頭部全体を培養する方法に切り替えた。5日間培養後トリパンブルー染色で生きていることが確認されたが、培養している状態で複眼からの光情報が脳に伝えられているかどうかを網膜電図(ERG)によって検討したが、今のところその証拠は得られていない。 光周性について卵巣発達に着目して研究を行ってきたが、概日時計遺伝子が光周性の中枢に関わることを示すため,脂肪量に関する光周性に注目した.ホソヘリカメムシは短日では脂肪を蓄積するのに対し,長日では蓄積量が低いという光周性を幼若ホルモンの関与なしに示す。period遺伝子のRNAiを行ったところ、短日条件でも脂肪の蓄積量は減少した。一方,Clock遺伝子のRNAiを行ったところ,長日でも脂肪の蓄積量が増加した。このことはこれらの時計遺伝子からなる概日時計が,卵巣発達と脂肪量の両方を制御する光周時計に関わっていることを示す。 【遺伝子】トランスクリプトーム解析は実験材料の準備の遅れのためにまだ行われていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【ホルモン】血リンパ中のホルモン濃度の測定ができていないのは、ホソヘリカメムシの幼若ホルモン分子がチャバネアオカメムシのように単一で血リンパ中の濃度の高いものではないためと考えらえる。 【時計】培養方法の確立が遅れているのは、わたしたちがこのような方法に慣れていないことに尽きる。 【遺伝子】トランスクリプトーム解析が遅れているのは、材料準備の段階で使っていた系統が理由は不明であるが明瞭な光周性を示さなかったなどの予期しない失敗によって、生物材料の調整が遅れこんだためである。
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今後の研究の推進方策 |
【ホルモン】1サンプルあたり個体数を多くするなど方法を工夫してさらに血リンパ中の幼若ホルモン濃度の測定を試みるが、それが不可能である場合も想定して、幼若ホルモン合成関連遺伝子の発現上昇を検知する系を光周性の指標とする方法も推進する。 【時計】ビブラトーム切片と丸ごとの脳ではできなかったので、パラフィン切片及びクリオスタットを用いた凍結切片によってPER陽性細胞を探索する。頭部全体の培養においては、網膜電図(ERG)を指標に、健全な状態で少なくとも5日間生きているような培養方法を確立する。そのために、培地や培養容器、頭部への酸素供給のために気管開口部の露出などの方法を工夫する。健全な状態で培養できるようになったら、ホルモンもしくは遺伝子発現を指標にして「頭だけでみられる光周性」を見出す。また、幼若ホルモンを介さない光周性についても、時計遺伝子の関与を明らかにする。 【遺伝子】遅れているトランスクリプトーム解析については、早急に実験材料を準備して遂行し、光周性に発現する遺伝子を見出して、それらをクローニングして塩基配列を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
トランスクリプトーム解析が遅れたために、解析を外注する「その他経費」を使用しなかったため、かなりの金額が次年度に繰り越しとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
すでにトランスクリプトーム解析用の脳試料は集まりつつあるので、平成27年度の早い時期にRNAseqを外注し、その結果得られる光周性によって発現が増減する遺伝子のオントロジー解析、さらには遺伝子のクローニング等の分子生物学実験へと進めるため、繰り越し金額は平成27年度前半に使用の見込みである。
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備考 |
本研究課題の内容を市民向けに説明したリーフレット「光周性とは何か」を印刷、発行した。
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