研究課題/領域番号 |
26292177
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
徳田 岳 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (90322750)
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研究分担者 |
菊地 淳 独立行政法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, チームリーダー (00321753)
大熊 盛也 独立行政法人理化学研究所, バイオリソースセンター, 室長 (10270597)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 昆虫生理生化学 / セルロース代謝 / キゴキブリ / シロアリ / メタボローム |
研究実績の概要 |
本年度は予定通り、オーストラリア・チラゴー鍾乳洞群においてNocticola属のゴキブリを採集したほか、アメリカ・アパラチア山脈においてキゴキブリのサンプリングを実施した。腸内共生系に競合する可能性のある細胞内共生細菌の代謝系を明らかにするため、採集したキゴキブリに共生するブラタバクテリウムのゲノム解析とアノテーションを行った。その結果、宿主の集団間でシステイン生合成系の遺伝子の有無に違いがあることや、他の細胞内共生細菌から硫酸還元経路が欠失していることが明らかとなった。硫酸還元経路はリグニンの生分解に影響を与えることが過去の研究で示唆されており、この経路を腸内微生物が担うことでリグノセルロース分解に影響を与えている可能性が考えられた。 代謝物解析を実施するため、酢酸菌によるセルロースシートの合成を行い、キゴキブリに対して摂食条件の検討を行った。キゴキブリの生育環境に近い低温高湿な飼育条件を構築し、3日、8日、16日の期間でセルロースを摂食させた。また、ゴキブリ消化管からの代謝物の抽出についても重水を使用した場合と、溶媒を使用した場合とで抽出効率の違いを検討した。また、上述の結果から、細胞内共生細菌が分布する脂肪体と腸内のアミノ酸量の定量を実施する必要があると考えられたことから、HPLCによる各組織(中腸、後腸、脂肪体、および血リンパ)における遊離アミノ酸の定量も開始した。 さらに、本研究計画を申請後、2種のシロアリのゲノム解析結果について論文が出版された。今後、ゲノム情報を利用した研究に対応する必要に迫られたため、ヤマトゲノム解析プロジェクトに参画し、セルロース分解等に関与する糖質加水分解酵素のマニュアルアノテーションを開始した。これにより3種のシロアリゲノムを比較し、セルロース消化に関与する遺伝子情報とそこから推定される代謝系について予備的な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、サンプリングについては当初の予想以上の成果を挙げることができ、結果的にサンプルの種類と数が大幅に増加した。そのため、代謝物解析については摂食条件の検討に時間がかかっており、それらの解析に必要な予算を基金分から次年度に繰り越した。また、研究の進捗によって、各組織から遊離アミノ酸を定量する必要が生じたため、これについても実施し、すでに一部データを得ている。さらに近年のゲノム解析の進捗に対応するため、新たにゲノム情報を利用した解析も開始した。当初の計画のみに限定すれば、サンプル数の増加によって条件検討のための予備実験が想定より増えたことからやや進捗の遅れがあるものの、サンプリングや研究の進捗によって新たに必要性に迫られた解析については順調に達成されていることからデータ量は当初の計画よりも増えており、研究計画全体としては概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の予定通り、系統的に異なるオオゴキブリやクチキゴキブリを加えた代謝物の比較解析を進めていくが、今後の研究成果に鑑み、さらに地理的分布の異なるキゴキブリと、アウトグループとして利用可能な他種のキゴキブリの入手が必要であると考えられる。そのため、次年度中に韓国および米国において、キゴキブリのサンプリングを計画している。これらの新たなサンプルについても代謝物解析に加え、アミノ酸の定量分析を実施する。また、急速に進展するシロアリのゲノム研究に対応するため、ゲノム情報を利用した糖質分解関連酵素遺伝子の発現解析やシロアリ種間の比較解析によるセルロース分解効率化因子の探索についても新たに進めていく必要があると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度、北米で実施したキゴキブリのサンプリングについては当初の予想以上の成果を挙げることができ(当初2系統の採集を予定していたが、Nalepa准教授の指導の下、染色体数の異なる全4系統のキゴキブリを採集することができた)、結果的にサンプルの種類と数が大幅に増加した。そのため、代謝物解析については摂食条件や代謝物の抽出条件の検討に当初の想定以上の時間がかかっており、年度内に実際の解析が当初の計画ほどは進まなかった。したがって、それらの解析に必要な予算を基金分から次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額については、次年度必要となる代謝物解析に必要となる物品費の予算に充てることを計画しているほか、代謝物解析に関連してアミノ酸定量の必要性が新たに生じているため、一部はこのための物品費として計上することを予定している。
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