研究課題/領域番号 |
26292182
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土居 克実 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40253520)
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研究分担者 |
田代 康介 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00192170)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シリカ / Thermus thermopilus / バイオミネラリゼーション / Geobacillus / 超好熱アーキア |
研究実績の概要 |
シリカスケール形成の機序を明らかにするため、まず、高温環境に生育する好熱性微生物とシリカとの関わりを明かにした。微生物種によるシリカ凝集の有無を検討し、さらにシリカ凝集に関与する生体物質の探索を試みた。 その結果、好熱性グラム陽性細菌であるGeobacillus属細菌と好熱性グラム陰性のThermus thermophilus HB8では培養上清のシリカ濃度が低下しており、シリカ凝集能を確認できたが、超好熱アーキアPyrobaculum calidifontisにおいてシリカ凝集は確認できなかった。この違いは細胞表層構造や培養温度の違いに起因すると考えられた。 生物的に誘発されるシリカ沈殿量が多かったT. thermophilus HB8と培地成分を含まない模擬地熱水とを反応させたところ、過飽和分のシリカと菌体が反応した事が示唆された。また、静菌作用を示すテトラサイクリンを加えた反応系でも同様にシリカ濃度の減少が見られたが、オートクレーブによって変性させた菌体では、シリカ濃度の減少は菌体そのものを加えた反応系と比べ69%にとどまったことから、シリカと相互作用しているのは、菌体が細胞外に放出する代謝物質ではなく菌体そのものであり、且つ、熱によって変性する物質であると推察された。 細菌の構成成分がシリカ凝集に関与するか検討するため、菌体破砕液を分画し、各画分をシリカ溶液と反応させたところ、膜画分が最も多くのシリカを凝集したことから、シリカと相互作用するタンパク質の抽出を試みた。抽出したタンパク質をSDS-PAGEで確認したところ、約45、57、70 kDaの位置にバンドが検出された。これらのESI-MS/MSの結果、57 kDaと70 kDaのバンドは、ペリプラズム局在性ABC transporterであることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の一つであるバイオミネラリゼーション形成に関与する微生物がおおよそ特定できたことは、これまでにない大きな成果であると考えられる。特に、超好熱アーキアはシリカスケール形成に関係せず、好熱性のグラム陽性細菌、グラム陰性細菌はいずれもシリカ沈殿に関わることがわかったが、その形成メカニズムが大きく異なることも分かった。これらの結果から、細胞表層が反応場になることもわかり、現在、シリカ沈殿に関与する生体高分子が解明されつつある。 そして、これまで得られた成果を3報の学術論文に掲載できたことから、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、好熱性グラム陰性細菌であるThermus thermopilus細胞膜画分のうち、膜タンパク質に着目し研究を行ったところ、シリカと相互作用すると推測されるタンパク質3種を見出すことができた。しかし、これらはいずれもpIが高く、正電荷を持つこと、そしてペリプラズムに局在するタンパク質であったことよりin vivoでこれらのタンパク質がシリカ凝集には疑問も残る。これを解明することが残された課題の一つと考える。さらに、得られたタンパク質の機能、特にシリカ結合能を探求していくことで、シリカを凝集させる生体分子を知る手がかりとなることが期待できる。 また、残された課題として、膜画分中に含まれる、タンパク質以外の生体高分子についても検討する必要があり、膜画分中に多く含まれる糖脂質、EPSを対象にした研究が重要であると考えられる。 さらに、これまでに得られた知見から地熱発電所の低コスト運用を目指すため、シリカスケール防除技術への展開、また、バイオシリカの工学的利用についても検討する。さらには好熱性微生物がなぜシリカを凝集させるのか、その生理的意義についての探求も行う予定である。
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