研究課題
N2Oは強力な温室効果ガスであるとともにオゾン層破壊物質でもある。農業はN2Oの最大の人為的排出源であり、その主要な発生源である農耕地におけるN2Oの発生メカニズムの解明および発生削減技術の開発は急務である。N2Oの発生経路は主に微生物による硝化および脱窒と考えられている。本課題は、応募者らがこれまでに開発した手法を発展させ、圃場でのN2Oフラックス連続測定、レーザー分光N2O同位体計によるN2O安定同位体自然存在比の連続測定および土壌微生物解析を組み合わせたN2O発生メカニズムの全体像の解明を行うことにより、将来的な発生抑制技術の開発につなげることを目的とした。(1)27年度に引き続き、ライシメーター圃場(黒ボク土、灰色低地土)において、有機肥料区(豚糞ペレット)および化学肥料(尿素)区のN2O発生量の連続測定、N2O安定同位体比および土壌中無機態窒素の測定を行った。その結果、黒ボク土において、有機肥料(豚糞ペレット)区からのN2O発生量は尿素区よりも多かった。同位体比解析の結果はいずれの土壌および処理区においても脱窒が重要な発生経路と考えられた。この同位体比解析の結果はこれまでの傾向と異なっており、気象条件による影響が考えられた。このため、さらなる解析が必要と考えられた。(2)これまでに圃場から分離した糸状菌のうち、非常に高いN2O発生ポテンシャル示す約3割の菌について培養実験を行い、糸状菌脱窒の安定同位体比の測定を行った。(3)27年度に引き続き、黒ボク土圃場において、バイオ炭によるN2O発生量削減効果の評価を行った。その結果、バイオ炭(もみ殻燻炭、竹炭、木炭2種類)施用によるN2O発生量削減効果およびCH4吸収量促進効果はみられなかった。このことから、バイオ炭の温暖化緩和効果は土壌炭素蓄積によるものが主であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
一部調査が予定通り実施できていないが、全体への影響は軽微で進捗はおおむね順調である。実際の農地におけるN2Oフラックス測定、同位体比解析および微生物解析を行い、圃場におけるN2O発生経路の解析を行った。また、4報の国際誌への論文発表ならびに6報の学会等の発表を行い、多くの成果を得た。
28年度において、夏季の多雨の影響により、一部のデータ取得ができなかった。データ取得できた期間に関しての同位体比解析の結果はいずれの土壌および処理区においても脱窒が重要な発生経路と考えられた。この同位体比解析の結果はこれまでの傾向と異なっており、気象条件による影響が考えられた。このため、再度実験を行い、レーザー分光計を用いた同位体比解析を行う。(1)圃場実験:農業環境変動研究センター内の黒ボク土(6プロット)および灰色低地土(6プロット)のライシメーター圃場(各3m×3m)を用いる。処理区は化学肥料区および有機肥料区(各3連)とする。N2Oの発生量および同位体比の連続測定を行なう。同時に土壌中無機態窒素の分析を行う。同時に26年度に開発したレーザー分光計と自動開閉チャンバーシステムを組み合わせた安定同位体比の圃場連続測定システムを用いたN2O安定同位体自然存在比の連続測定を実施する。チャンバー閉鎖時間を1時間~3時間とし、土壌水分への影響を最小限としチャンバー内N2O濃度を最大とするための最適閉鎖時間を明らかにする。これにより、実際の環境中におけるN2Oの発生経路を明らかにする。。
2016年の夏は、平年の倍以上の多雨(8月277㎜(平年130㎜))であり、また9月も多雨傾向(209㎜(平年183㎜))であった。このため、試験圃場の排水が十分でなく、使用していたサンプリング機器が電源浸水のため故障した。さらに、圃場試験において栽培していたホウレンソウに萎凋病等の病害が多発し、十分なデータの取得ができなかった。このため、2017年春作において圃場試験を再度行う必要が生じた。
消耗品(研究用ガス、ガスクロマトグラフ関連部品等)および研究補助者の賃金として使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
Soil Biology & Biochemistry
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