研究課題/領域番号 |
26292186
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
下村 彰男 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (20187488)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 文化的景観 / 自然災害 / 減災 / 親自然 |
研究実績の概要 |
平成27年度調査では、京都嵐山地区において、人々が桂川(大堰川)と、どのように接してきたのかについて調査を進展させるともに、重点調査地域として設定した津波の常襲地域である和歌山県(美浜町、広川町、湯浅町)および高知県(芸西村、須崎市、黒潮町)の沿岸部において、減災施設と集落構造との関係について現地調査を実施した。 (1)京都嵐山地区における人々の営みと桂川(大堰川)との関係について:前年度収集した絵図や写真等の中から、1900年~1950年の絵はがき約300枚を分析し、嵐山地区における全体的な景観パターン認識、主たる景観構成要素である大堰川の景観的特徴、大堰川と隣接する陸域との関係について検討を行った。分析の結果、現在は嵐山を主題とし大堰川と渡月橋を配した景観に限定されているが、従来は大堰川を中心とした下流あるいは上流に向けての景観など多様なパターンが存在したこと、大堰川も平穏な姿だけでなく動的な景観をも含めて多様な姿として認識されていたこと、そして大堰川と陸域との間に親水性の高い水辺が形成され、相互に深く結びついて認識されていたことが明らかとなった。この研究成果に関しては、日本造園学会の学会誌「ランドスケープ研究」に投稿し受理された。 (2)津波常襲地域における減災施設と集落構造との関係について:平成26年度は木曽三川の輪中地域の調査を実施したが、今年度は津波の常襲地域である和歌山県(美浜町、広川町、湯浅町)および高知県(芸西村、須崎市、黒潮町)の沿岸部における調査を実施した。そして海岸防災林や堤などの減災施設が、沿岸部の微地形を最大限に活用して整備されてきたこと、そして社寺や共同利用施設等の立地から判断して、集落が海へ向けて開かれた構造を有していること、また、減災施設内に神社を配し、住民が海そして減災施設に対して常に認識を高めるような要素配置がなされていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、平成27年度においては,重点調査地域の分析を概ね終えて、自然災害多発地域における共生モデル像を仮説的に提示することを予定していた。しかしながら,現地調査を踏まえたイメージとしての自然共生像を想定することはできているものの、調査地域の分析を踏まえた仮説的なモデル提示というところまでには至っていないのが現状である。その遅れの要因としては,以下の2点である。 (1)嵐山地区に関する調査に関しては、絵図や写真の分析を通して、河川との深い結びつきを見いだすことができた。しかしながら一方で,防災的な側面に関してどのような方策を講じてきたのか関する調査が進展していない。京都において水害に関する歴史的な資料調査を実施したところ、鴨川に関する資料や文献は多く見られたものの、大堰川や嵐山に関する資料を容易に見いだすことができなかった。一端、ヒアリング等を挟む必要があると考えられる。 (2)和歌山県、高知県の沿岸域における調査に関しては、当初想定していた、集落構造と減災・防災施設との直接的な関係よりも、沿岸域の地形、それも微地形を活用した施設配置や景観(空間)構造形成について分析を進めた方が有効であることが,現地調査を通して想定された。そこで、地形分析を進め始めており、その準備や手順設定に時間を有したことが遅れの主たる要因であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成26、27年度に実施した重点調査対象地に関して、詳細な視視覚分析を進展させるとともに、さらなる文献・資料調査を進め、文化的景観に関する分析との相互関係を検討し、災害対策をも念頭に置いた自然共生像について仮説を構築する。 (1)重点調査対象地に関する視知覚分析を実施する。平成27年度に現地調査を実施した、和歌山県(美浜町、広川町、湯浅町)および高知県(芸西村、須崎市、黒潮町)の沿岸部において、微地形と集落構成、道路構成、災害防備森林との位置関係にする詳細な検討を実施する。現地調査では、これらの地域において沿岸部の微地形を巧みに活用しており、また道路講師についても海に対する視線の確保が巧みに盛り込まれていることを仮説として抽出しており、この仮説の検証をDTM等を用いて詳細分析を実施する。 また、嵐山地区における水害の歴史に関して、文献・資料調査を補完的に実施するとともに、調査対象地の文化的景観に関する分析を実施する。災害防備林や堤を代表とする減災施設と、社寺等の宗教施設や地境との「親和性」をも担保している地域(地区)の自然共生像について、その基本的パターンを構築するとともに、これまでの大規模な災害経緯を踏まえつつ時系列に分析を行うとともに、文献・資料調査結果との相互関係についても検討を行う。 (2)自然共生像に関する仮説の構築と調査全体のとりまとめ:これまでの調査や分析を踏まえ、水系・水を中心とした周辺自然環境に対する①アクセス性、②可視性、③心的・宗教的連続性(親和性)、④生活での利活用、⑤コミュニティ形成での核性等について検討・整理する。そしてこの整理を通して、自然災害から地域を「護り」ながらも、自然環りまとめを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた、海岸沿いの水害多発地域に関する重点調査対象地の分析作業について計画変更したため実際の分析作業が進まず、それらの作業のための人件費等に使用すべき金額が未使用となっている点、また、そうした作業後の確認のための現地調査を実施していない点が主たる要因である。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に繰り越した費用は、海岸沿いの水害多発地域に関する重点調査対象地の設定に関する分析のための人件費、および追加の文献・資料調査そして現地調査の実施旅費として使用する予定である。さらに仮説変更に伴う追加調査対象地を設定し、現地調査では、現地での文献資料調査、ヒアリング調査、現地での観察調査等をの実施する予定である。
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