研究課題
高発現することにより酸化ストレス耐性を付与するBax Inhibitor-1(BI-1)遺伝子の機能を明らかにする事を目的として研究をおこなった。具体的には、BI-1との相互作用の候補因子であるFAH、ELO、SLDに注目し、これらの過剰発現体や発現抑制株をイネおよびシロイヌナズナで作成した。BI-1がこれらの因子の酵素活性を直接的に制御するかどうかについて調べるため、小胞体膜画分を用いた活性測定を試みており、現在、酵素活性および産物を検出するための条件を検討中である。FAH、ELO、SLD はいずれもスフィンゴ脂質代謝に関与する酵素であることから、BI-1高発現イネ系統におけるスフィンゴ脂質の変化をGC-MSおよびGC-MS/MSを用いて解析した。スフィンゴ脂質は特に細胞膜上のマイクロドメイン(脂質ラフト)の主要構成要素であることが知られている事から、細胞質膜を抽出し、さらにそこから界面活性剤耐性画分(DRM)を抽出し、脂質の組成を解析した。その結果、BI-1過剰発現体ではスフィンゴ脂質のうち、とくにDRM画分におけるグルコシルセラミドの量が増加していることが明らかとなった。さらに、コントロールとしてBI-1非形質転換イネ培養細胞と、BI-1高発現細胞のDRM画分に含まれるタンパク質をLC-MS/MSにより同定した結果、BI-1の発現量に応じて存在量が変化するタンパク質が存在することが明らかとなった。特に、DRMタンパク質を用いたSDS-電気泳動で明らかに存在量が減少ししている事が確認できたタンパク質として、HIR(Hypersensitive induced reaction)およびFLO (Flotillin)を同定した。これらのタンパク質の量的変動がBI-1を介した酸化ストレス耐性付与の機構において重要である可能性について、さらに検討をおこなう。
2: おおむね順調に進展している
Bax Inhibitor-1 (BI-1)を高発現させたイネ培養細胞において、BI-1の発現量に応じて存在量を変化させるマイクロドメインタンパク質の存在を示す事に成功した。相互作用因子の酵素活性および産物の検出については、条件検討に時間がかかっていたがほぼ手法を確立し、来年度に本格的な測定を実施できる状況になっている。さらに、BI-1との相互作用因子として複数のスフィンゴ脂質代謝に関与する因子の存在を想定していたが、実際にBI-1高発現細胞でスフィンゴ脂質のクラスの一つであるグルコシルセラミドの量が増加している事を示す事ができた。これらの知見は、植物細胞膜上のマイクロドメインが植物の環境応答の制御に関わっている事を示す重要知見である。
BI-1高発現が、細胞膜マイクロドメインタンパク質および、マイクロドメインを構成するスフィンゴ脂質の量および質に影響を与える事を示す事ができた。研究対象としてイネの培養細胞を用いる事により、組織や器官ごとの差異を最小限にできたことが、検出につながったと考えられる。今後は、これらの変化が実際に植物の環境ストレス応答の変化にどのように関わるのかを、植物個体レベルで解明する必要がある。特に、マイクロドメイン上に存在し、BI-1の発現により存在量が減少したタンパク質について、その因子単独の過剰発現体および遺伝子破壊系統の作出を進め、ストレス応答における役割を解明する。さらにシロイヌナズナでも本因子の役割に注目し、種を超えた共通のメカニズムである可能性についても検討をおこなう。
BI-1遺伝子高発現植物体における相互作用因子との関係に関する解析において、活性レベルでの解析が現在、条件を検討している状況となっている。消耗品類の購入予定が当初の見込みよりも後にずれた為、差額が生じた。また、体調面の問題から、当初予定していた国際会議での成果発表を次年度に延期したため、旅費の執行計画にずれが生じたものである。
平成27年度において、本格的な酵素活性レベルの研究を開始するため、当初の予定に追加して消耗品の購入が必要である。また、H26に体調面から断念した本研究課題の海外での成果発表を行うため、The 26th International Conference on Arabidopsis Research への参加を予定している。これにより、「次年度使用額」は当初予定していた研究費と併せて使用する予定である。
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