研究課題/領域番号 |
26292190
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
川合 真紀 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10332595)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / 酸化ストレス / イネ / 脂質代謝 |
研究実績の概要 |
高発現すると酸化ストレス耐性を植物細胞に付与するBI-1(Bax Inhibitor-1)遺伝子の機能に関して、細胞膜マイクロドメインの変化に注目して研究を行っている。これまでに、BI-1と物理的、あるいは機能的相互作用する因子としてFAH (fatty acid hydroxylase)、ELO (elongase)、SLD (sphingolipid desaturase)を単離した。興味深いことに、これらは皆、脂質の中でもスフィンゴ脂質の代謝に関係する因子であった。スフィンゴ脂質はそれ自身が細胞死のシグナルとして機能する他、細胞膜上の機能ドメインである脂質ラフトの主要構成要素である。植物の酸化ストレス応答において、この脂質ラフトの再構築や機能転換が起きる可能性を検証した。 本年度は、中でもSLDの欠損植物体の解析および、過剰発現体の解析を中心に行った。SLDはスフィンゴ脂質に含まれる長鎖塩基(LCB)のΔ8位の不飽和化を担う酵素である。シロイヌナズナは2種類のSLD (AtSLD1、AtSLD2)を持つが、イネは1種類のSLDしか持たない。これらの植物種間ではLCBの不飽和度の違いや、不飽和基の異性化の形式(cis, trans)も大きく異なる。そこで、これらの遺伝子の酸化ストレス応答における役割を明らかにするため、AtSLD1、AtSLD2の両者を欠失したシロイヌナズナに、イネのSLDやAtSLD1、2を導入し、それにより作られるスフィンゴ脂質の量や特性を調べた。その結果、導入した遺伝子特異的なスフィンゴ脂質が生成されることと、その違いが、植物体の生育やストレス応答に異なった影響を及ぼす事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロドメインを構成すると考えられている主要要因の一つであるスフィンゴ脂質代謝酵素の生合成因子(FAH, SLD, ELO)について、順調に機能解析が進展している。突然変異体の機能解析に加え、過剰発現体の作出等も進み、これらを用いた脂質分析の結果等も順調に得られている。 また、これまでの主要研究成果として、BI-1を高発現したイネ細胞におけるマイクロドメインの脂質の組成変化と、マイクロドメイン上に局在化していると考えられるタンパク質のストレス応答についての役割について、本年は学術論文を発表することができた(Ishikawa et al, Plant Phys.)
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今後の研究の推進方策 |
これまでに概ね、注目しているスフィンゴ脂質代謝酵素に関する欠損体、過剰発現体の作成や発現量解析が終了している。今後は、これらを用いて、どのようなマイクロドメインの変化が植物のストレス応答に直接的に影響を与えているのかを明らかにしていく段階に入る。当初の研究で用いていた過酸化水素やメチルビオロゲンなどの酸化ストレス薬剤に加え、今後は強光や低温、病原菌に対する応答など、より自然条件に近いストレスに対する応答についても調べていく。また、現在注目している因子は主に小胞体膜上に局在化している酵素であると考えている。これまでに見出された基質特異性や植物種による産物の違いなどを説明するためには、これらの因子間の相互作用と複合体の構成要素についても研究を進めて行く必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた形質転換体の解析のうち、LC-MS/MS、CE-MS/MSを用いた代謝物定量実験のうちの一部分が、装置類の不調により遅れている。このため、これらの装置類の整備の為の費用、および必要消耗品類にかかる経費の支出が遅れた。また、学術誌への投稿中の研究成果があり、この採択に伴う投稿費用と印刷費の支払いが後ろにずれ込んでいる。このため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前述のように、昨年から持ち越している質量分析計による測定のための経費(装置類のメインテナンス、必要消耗品類の購入)、および、学術誌への投稿、印刷代等の経費として、本年度予算分として計上した研究費と合わせて支出予定である。
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