研究課題/領域番号 |
26292192
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
人見 清隆 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (00202276)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酵素 / カルシウム / 皮膚表皮 / 線維症 |
研究実績の概要 |
本研究は、生体内で蛋白質の架橋により多彩な生理機能の調節を行う酵素ファミリー、トランスグルタミナーゼの正常時と制御破綻時での活性変動、架橋する基質蛋白質群の相違を解析し、新たな生理機能の発見や関連疾患への情報提供をめざすものである。初年度は、以下のような主に3つの項目に分けて実施した。(1)FRET(共鳴エネルギー移行現象)が蛋白質間の結合を検出できることを利用し、本研究では架橋形成を細胞内で検出する応用を試みた。試験管レベルでの条件の改良(感度と特異性)をすることはできたが、動物細胞での発現による細胞内での活性検出系を構築するまでには至らなかった。また並行して、高反応性ペプチドを用いた活性の可視化を、マウスの全体切片を対象に主要なアイソザイムにおいて行い、データベースを構築するべく、抗体検出、RNA検出(in situ hybridization)による発現解析を全て完了した。また、線維症や腎不全のモデルマウスを作製し、それらの組織における活性の変動を解析した。(2)高反応性基質配列ペプチドを用いて、皮膚や腎臓において架橋される分子を網羅的に探索するシステムを構築した。酵素欠損マウス由来の組織、皮膚表皮培養細胞を対象にして探索を行い、基質として従来報告のなかった分子群を見出した。このことは、正常時と制御破綻時の、蛋白質架橋産物の違いを明らかにし、疾患要因となる分子の解明や診断に役立つ分子を同定する可能性を大きく展開したものと考えている。(3)モデル生物としてのメダカは近年、創薬や医薬で用いられており、本研究課題では、ヒトのトランスグルタミナーゼに相当する遺伝子群を明らかし解析することを計画していた。相当する遺伝子について組換え蛋白質や抗体の作製を行い、各々の発現部位を明らかにした。さらに、主要な酵素のいくつかについて、欠損変異体の作製を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時には3つの項目として研究計画をあげた。このうち、(1)FRETを用いた架橋反応の可視化の条件設定を詳細に行った上で動物細胞内において発現させる、という計画であったが、より効率のよい条件を見出すことができており、感度の上昇やアイソザイムを区別できる特異性付与の工夫は成功したものの、動物細胞内でこれを再現する試みはまだ途上である。一方で動物組織毎の活性の可視化と発現分布のデータベース作製に向けた実験は全て予定どおり完了した。また、線維症や腎不全のモデルマウスの作製とこれらを用いた本酵素反応の関連性を明らかにできた。すなわち、そのような疾患時におけるマウス肝臓および腎臓での架橋反応の実態(抗体による検出や活性測定、活性分布の可視化)といった一連のデータ解析を予定通り行うことができた。また、架橋酵素阻害能のある物質の投与によって、治療薬開発に向けた基本データも得ることができた。(2)動物組織内における架橋される基質の網羅的探索方法の確立はほぼ完了した。その結果のひとつとして、架橋化酵素欠損のマウスの腎臓では特異的に架橋反応がなされていない基質蛋白質群を見出すことができた。また、皮膚表皮の形成に伴って、本酵素で修飾をされる蛋白質群の同定を行うことができた。(3)の計画では、本酵素の生理機能解明のためのモデル動物、すなわちメダカを用いた疾患症状の模倣をめざしての試みを順調に進めた。ゲノム編集により、ヒトに相当する遺伝子群について3種類の主要なアイソザイムの欠損個体の作製に成功しつつある。他の遺伝子群については、抗体作製とこれを用いた検出で発現部位を明らかにした。全ての変異個体の表現型は解析は途上であるが、そのうちの一つは移動距離の行動異常を見出すことができ、疾患モデルとしての可能性が期待される結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画項目のうち、FRET現象を用いた活性の可視化を細胞で行うことについては、バックグラウンドを下げるために酵素を欠損させた細胞株を用いて試みる。他項目については、予定通りの進行であり、マウスを用いた発現データベースを情報提供ができるよう、論文作成に併せて結果を閲覧しやすい形式にする。疾患モデル(腎不全、線維症)の組織における架橋化酵素活性変動のデータを得たので、より詳細な時間的および空間的な変動、より細かな組織内の活性分布を明らかにしたい。今年度はさらに生化学的なアプローチとして、疾患に伴って架橋される基質蛋白質群の網羅的な探索も予定しており、架橋された産物の性質をより詳細に解析することで、本酵素反応の発症メカニズムにおける寄与・関連を明らかにしたい。架橋される基質の抗体作製に加え、(架橋化酵素の)遺伝子欠損動物、組織も併せて用いることで、「正常な組織と比べて架橋される分子群がどのように異なるのか」に関して、より詳細な連関を明らかにできるものと考えている。 モデル生物としてのメダカを用いた解析では、酵素としての性質や組織分布など、細胞瀬物学的なデータ収集をほとんど完了したので、何が架橋されやすいかを推測して解析対象とする現象を絞る。遺伝子変異個体については、いくつかのヒト相当遺伝子の欠損体を得ているところで、表現型(行動異常、血液凝固、皮膚形成、骨の異常)など、ヒトの疾患に関わる生理機能の異常がないかを具に検討したい。また、多種の方法による遺伝子欠損体の取得や遺伝子発現を補うことにも挑戦し、ヒト疾患と本酵素反応の関連情報をより多く提供する。
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