成体では必要に応じて蛋白質どうしが共有結合レベルで架橋化し、本来の構造や機能が修飾される酵素反応が存在する。これは皮膚表皮形成や血液凝固など多彩な生命現象に必須で、動物から微生物まで幅広く存在するトランスグルタミナーゼと呼ばれる酵素ファミリーにより行われる。高等動物での本酵素反応は、適切な制御のもとに8つのアイソザイムがそれぞれの組織・細胞内で役割を果たすが、活性や発現レベルに破綻(異常)があった場合には、生体の恒常性が失われ疾患に至る。しかしその際の細胞レベルの状況や制御過程については不明な点が多くあった。 本研究では様々な場面で生体機能を司る蛋白質架橋化反応が制御を失った場合に、細胞内外や組織レベルでどのような変化がみられるか、破綻された系の確立を行い、分子細胞レベルで明らかにしようとした。またこのアプローチはこれまでに明らかでなかった生理的意義の解明にも繋がると考えた。 蛋白質架橋の破綻する現象(疾患)としては表皮形成(皮膚)と線維症(腎臓・肝臓)を主に対象とした。前者の表皮においては構成蛋白質を架橋化し、正常なバリア機能を付与することが本酵素の役割である。しかし未だ架橋化を受ける基質蛋白質は全容が明らかではなかった。そこでこれまでに確立していた、酵素に特異的な高反応性基質ペプチドを活用して、基質候補蛋白質群を一挙に探索する系を確立し、新規な基質を明らかにした。線維症は、細胞外マトリクスを始めとする蛋白質の過剰な架橋化が組織の線維化と炎症をもたらす。外科的処置によりマウスを疾患状態にさせ、活性の変動を明らかにするとともに、「何が」架橋されるかの基質探索を高反応性基質ペプチドを用いて探索した。さらにモデル生物(メダカ)を用い、本酵素の類似遺伝子について生化学的解析をするとともに、欠損個体を作製し、その表現型を解析した。この過程で血液凝固異常メダカの作製に成功した。
|