研究課題
昨年度までの検討により,アルキン末端に窒素原子が直結したイナミド誘導体の「CO2を一炭素源とした0価Ni錯体を用いたカルボキシル化反応」によりβーアミノアクリル酸誘導体が合成できることを見出し,これを「Rh触媒を用いた不斉水素化反応」に付すことにより,光学活性β-アミノ酸が合成できることを見出している,しかし本方法では,前者のNi錯体を用いたカルボキシル化反応において,三置換βーアミノアクリル酸誘導体を合成する際に量論量のNi錯体を必要とし,反応が触媒的に進行しないことが問題となった.この原因として,0価Ni錯体とイナミドとCO2との反応で生成する「ニッケララクトン中間体」が安定であるためNi-炭素結合の切断には酸性条件下での加水分解が必要であり,この際にNi錯体が2価錯体となり0価Ni錯体へと再生する経路が存在しないため反応が触媒的に進行しないと考えられる.従って,本反応を触媒的に進行させるためには,「ニッケララクトン中間体」のNi-炭素結合を「還元的」に切断する手法の開発が必要である.そこで,今年度は種々の還元剤を用いた本反応系の検討を行ったところ,還元剤としてZnを用いMgBr2存在下,反応を行うとNiに関して触媒的に反応が進行することを見出した.しかも興味深いことに,本反応系ではカルボキシル化反応の位置選択制が量論反応の場合とは逆転し,αーアミノアクリル酸誘導体が選択的に得られることが明らかとなった.本反応の機構解明を目指し種々検討を行ったところ,1)「ニッケララクトン中間体」を経由せずに進行している,2)ヒドロメタル化反応によりαーメタル化が起こり,αー位でCO2と反応が起こっている,ことが確認された.今後は更に本反応の反応機構の解明を続けるとともに,本反応を利用したαーアミノ酸の不斉合成へと展開していく予定である.
1: 当初の計画以上に進展している
上述の「研究実績の概要」にも記した通り,αーアミノアクリル酸誘導体を与える新規触媒反応を開発することができた.また紙幅の関係で「研究実績の概要」には記述しなかったが,本申請の関連研究として今年度は「コバルト触媒によるCO2を用いたアリル位C(sp3)-H結合の直接的なカルボキシル化反応」の開発にも成功している.反応性の低いC(sp3)-H結合を遷移金属錯体で直接活性化し,官能基化することは現在の有機合成化学における最もホットな研究領域であるが,反応試材としてのCO2も極めて反応性が低いことから,反応性の低い部位同士を直接反応させることに成功した本報告は極めて興味深い.CO2の炭素資源としての有効利用を目指す本研究の目標にも合致する新たな方式のカルボキシル化反応として,注目に値するものである.
次年度は最終年度であるため,さらに研究計画に従いCO2を炭素資源として利用したαー及びβーアミノ酸の不斉合成の確立を目指す.また,上述の「コバルト触媒によるCO2を用いたアリル位C(sp3)-H結合の直接的なカルボキシル化反応」の展開も目指し,窒素官能基のα位選択的なカルボキシル化反応への展開,及び不斉反応への展開も精力的に検討していく予定である.
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 図書 (1件)
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