研究課題
精神疾患の病態機序は未解明であり、分子病態研究に基づく新規機序の創薬が今後の重要な課題である。申請者らは、神経ペプチドPACAPが、統合失調症を含む種々の精神障害の脆弱性因子であることを、動物モデルと臨床疫学研究により明らかにし、これを補強する臨床研究が海外からも報告されている。またこれまでに、PACAP欠損マウスの精神・神経機能の異常が、非定型抗精神病薬(セロトニン・ドーパミンアンタゴニスト;SDA)により著明に改善することなども認めている。そこで本研究課題は、PACAPシグナルを標的とした精神疾患の機序解明および創薬に貢献する知見を集積することを目的として実施中であり、平成28年度においては以下の検討を行った。1.β-arrestinと各種受容体との相互作用を発光で可視化するため、これらタンパクを発現するレンチウイルスを作製した。これらを用いて、初代培養神経細胞におけるβ-arrestin 1、2とPAC1を含む精神機能調節において重要な各種受容体との相互作用を時空間的に捉える系を構築した。2.PACAP刺激後、PAC1受容体と両β-arrestin の相互作用を経時的に観察したところ、β-arrestin 2との相互作用シグナルの膜上から細胞内への移行が観察された。またβ-arrestin 2のsiRNAによる発現低下は、PACAPによるPAC1受容体の細胞内在化を阻害し、ERKのリン酸化を減少させた。3.PAC1受容体の活性化による5-HT2A受容体の細胞内局在化のメカニズムに関して、PAC1受容体と5-HT2A受容体の何らかの相互作用が関与する可能性が示された。この点については、さらなる検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
本年度に計画した実験に関して、当初の予定通り進展できた。PAC1受容体とβ-arrestin 1および2の相互作用を発光シグナルによりライブイメージングする検出系を作製し、PACAP刺激後、発光の細胞内における分布(とその変化)を経時的に捉え、β-arrestin 1と2では、分布の変化に違いがあること、また、ERKのリン酸化についても、両β-arrestin の発現阻害による効果が異なることが見いだされた。これらのことは、PACAPシグナル系におけるβ-arrestin 1および2 の役割の違いを示唆するものであり、PACAP-PAC1シグナルを標的とした精神疾患の治療薬の創製に向けて有用な知見となるものと期待される。
期間を延長することで、最新のイメージングを用いた脳機能およびその変調の解析にも取り組むとともに、引き続きPAC1受容体の刺激による5-HT2A受容体の内在化のメカニズムについて検討し、PACAP受容体を標的にした神経機能調節の解明を目指す。
PAC1受容体の活性化による5-HT2A受容体の細胞内局在化の機序解析において、β-arrestin が関わるメカニズムに加え、PAC1受容体と5-HT2A受容体との何らかの相互作用が関与する可能性について解析する必要があると考えられた。この機序の理解は本研究の主要な課題を説明するものであり、重要であると考えられる。このためには、より定量的な検出系を用いた解析を継続することが必要となるため、次年度使用額が生じた。
PAC1受容体と5-HT2A受容体の相互作用の検出条件を精査するとともに、初代培養神経細胞を用いたPAC1受容体シグナル経路の解析を行い、PACAPシグナルを標的とした精神疾患の機序解明を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 4件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (20件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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