研究課題/領域番号 |
26293021
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
今泉 祐治 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (60117794)
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研究分担者 |
山村 寿男 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80398362)
鈴木 良明 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (80707555)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ストア作動性カルシウム流入 / 細胞膜電位 / Kir2.1チャネル / ClC-7チャネル / CRACチャネル / 脳血管内皮細胞 / 軟骨細胞 |
研究実績の概要 |
当該年度は(A)、(B)に関して以下の2点について取り組んだ。 (A-1) 正帰還Ca2+制御機構での主なCa2+流入経路の分子同定と機能分子複合体形成の可能性検討:これまで、SOCE の主なCa2+流入経路としてOrai やTRP、Stimが知られている。当該年度では、PCR やウエスタンブロット、RNAiなどにより、軟骨細胞・脳血管内皮細胞でSOCEを担う分子としてOrai1, Orai2, STIM1を同定した(Cell Calcium, Biochem Biophys Res Commun., 2015)。軟骨細胞では、Orai1が主にSOCEを引き起こしているのに対して、Orai2がヘテロ4量体を形成してSOCE活性を制御しているという新たな知見を得た。また、Cl-チャネルの一種であるClC-7チャネルが軟骨細胞の静止膜電位を制御し、間接的に細胞内Ca2+濃度を低下させることを明らかにした。脳血管内皮細胞でも同様にOrai2がOrai1の機能を抑制的に機能していることが明らかになった。特に、Orai1の発現は細胞周期非依存的であったが、Orai2の発現はG2/M期に増加し、SOCE活性が減少するという結果を得た。 (B-1) 正帰還Ca2+制御機構の異常亢進または破綻が、細胞機能障害・細胞増殖・細胞死など誘導する分子機構の解明:変形性関節症患者の滑液の浸透圧は正常人と比べて低くなることが知られている。そこで、軟骨細胞株における低浸透圧刺激の作用を調べたところClチャネルのうち、ClC-7チャネルの発現が減少し、細胞膜電位を過分極方向に導き細胞死を誘発することを明らかにした(Mol Pharmacol., 2015)。また、脳血管内皮細胞での、低酸素ストレスによるCa2+透過チャネルおよび膜電位制御に関連するの発現調節とそれによるCa2+正帰還制御機構の機能変化を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軟骨モデル細胞における細胞外からの持続的なCa2+流入を引き起こすCa2+チャネルの分子実体の同定と、変形性関節症を模擬した低浸透圧培養下でのClC-7発現の減少とそれによる細胞死の誘発を明らかにすることができ、学術誌に発表した(Cell Calcium, Molecular Pharmacology, 2015)。 また、脳血管内皮細胞におけるOrai1・Orai2の機能を明らかにすることができた(Biochem Biophys Res Commun., 2015)。現在、低酸素の影響についても検証しており、Kir2.1チャネルの発現が変化するという知見を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
①平成26年度には、軟骨細胞や脳血管内皮細胞において、CRACチャネル(Orai1, Orai2, STIM1)やClC-7チャネルの生理的機能や病態形成への関与を明らかにすることができた。しかし、これらのイオンチャネルとKCaチャネルの分子相互作用については、ほとんど検討することができなかった。本年度では特にCRACチャネルとKCaチャネル(BKチャネル、IKチャネルなど)が、カルシウムマイクロドメインに集積して機能連関を示すか、蛍光イメージング法を用いて明らかにする。 ②変形性関節症時の軟骨細胞において、上記のイオンチャネルをはじめとするシグナルタンパクの発現変化が起こるか培養細胞、モデル動物及びヒト組織のレベルで研究を進める。培養細胞を用いた実験系では、低浸透圧刺激や酸性(低pH)刺激を用いて解析する。モデル動物やヒト組織を用いた実験系では、名古屋市立大学医学部と共同研究を締結し、モデル動物やヒトサンプルの供与を受ける。 ③脳血管内皮細胞に対しても、低酸素刺激による各種イオンチャネルの発現変化を網羅的に明らかにする。特に、細胞内Ca2+濃度制御に関与するCRACチャネル、Kir2.1チャネル、SKチャネルに焦点を当てて研究を行う。これらのイオンチャネルの発現変化が明らかになった場合には、転写調節(mRNAレベル)及び細胞内輸送や分解などの発現調節機構(タンパク質レベル)の解明を目指す。 ④ラット精管平滑筋において、去勢手術あるいは抗アンドロゲン薬の投与によって、ユビキチン・プロテアソーム系の活性化を介してBKチャネルの発現量が減少することを明らかにしている。また、ヒト前立腺及び精管平滑筋においても同様の現象が起きるという知見を得ている。しかし、アンドロゲン受容体とユビキチン・プロテアソーム系を結びつけるシグナル経路については不明である。そこで、関連するシグナル分子の同定を行い、性ホルモンによるBKチャネル発現制御機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、軟骨細胞株及び脳血管内皮細胞に重点を置いた研究を行った。そのため、予定していた気道上皮細胞や前立腺間質細胞、リンパ球を用いた研究を十分に行うことができなかった。また、種々のストレスや刺激に対する細胞応答や、各種イオンチャネルの発現調節機構の検討も具体的な実施には至っておらず、これらに計上する予定であった予算が次年度使用額となった。
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次年度使用額の使用計画 |
軟骨細胞株及び脳血管内皮細胞に加えて、免疫系細胞(リンパ球やマクロファージ)や性ホルモンの制御を受ける細胞(前立腺間質細胞や輸精管平滑筋細胞)などを用いて、正帰還Ca+制御機構における分子複合体の解明や、種々のストレス(低酸素・酸性pH・酸化)や刺激(オータコイド、炎症性サイトカイン、性ホルモン)に対する細胞応答・各種イオンチャネルの発現調節機構を解明する。そのために、動物や培養細胞の購入・維持費、各種試薬の購入費として繰越額を使用する。
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