研究課題/領域番号 |
26293029
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
太田 茂 広島大学, 大学院医歯薬保健学研究院(薬), 教授 (60160503)
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研究分担者 |
佐能 正剛 広島大学, 大学院医歯薬保健学研究院(薬), 助教 (00552267)
古武 弥一郎 広島大学, 大学院医歯薬保健学研究院(薬), 准教授 (20335649)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 3次元培養 / 薬物代謝酵素 / 化学物質 / アセトアミノフェン / ユビキチンプロテアソーム / オートファジー |
研究実績の概要 |
肝細胞の3次元培養系は、単層培養よりもin vivoに近い状態を維持することが期待される。薬物代謝酵素であるチトクロームP450(CYP)、グルクロン酸転移酵素や硫酸転移酵素の発現は、細胞塊スフェロイドが形成する前は一旦減少するが、スフェロイドが形成されると一定に維持される。このことから、スフェロイドを形成させることで、in vivoを反映した薬物代謝酵素の発現と分解の高次調節機能がとれるようになるものと考えられる。これまで、ラット肝臓から単離した肝初代細胞だけでなく脳から単離した神経初代細胞の3次元培養系を構築し、評価を進めている。 化学物質による薬物代謝酵素タンパクの発現誘導メカニズムは整理されてきているものの、薬物代謝酵素タンパクの分解に関する研究は少ない。誘導・分解に伴う薬物代謝酵素発現量は、代謝物生成による解毒化・活性化に影響を与えることからも、本研究は重要な位置付けとなる。 肝細胞スフェロイド培養期間中は、CYP3Aのタンパク発現量は一定に維持していたが、解熱鎮痛剤アセトアミノフェンを肝細胞スフェロイドに曝露させたところCYP3Aのタンパクの発現量およびCYP3A活性が上昇した。しかし、CYP3AのmRNA発現量は増加しなかったことから、アセトアミノフェンによるCYP3Aタンパクの発現誘導は、転写活性化によるものではなく、タンパク質分解の抑制に起因するものと考えられた。今後、アセトアミノフェンによるCYP3Aタンパクの分解抑制メカニズムについて解明していく予定である。 さらには、肝細胞スフェロイドにおいてCYP3Aによる代謝反応を介した肝毒性評価も行った。薬物代謝酵素によって代謝活性化され毒性を惹起する医薬品と、アセトアミノフェンのような薬物代謝酵素の発現量を増加させる医薬品の併用によって、その毒性がさらに増強する可能性も考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた、肝細胞だけでなく神経細胞の3次元培養系の構築もできるようになった。肝細胞のスフェロイドは、CYP3A mRNAだけでなくタンパクレベルも一定に発現が維持していることから、タンパクの発現誘導、および分解のバランス調節が取れている可能性が示唆された。解熱鎮痛剤アセトアミノフェンを曝露したところ、CYP3Aのタンパク質発現量が増加した。この要因としてそのCYP3Aタンパク分解の抑制が考えられ、期待される結果を得ることができた。また同時にCYPによって代謝的に活性化され毒性が発現する医薬品の評価も行うこともでき、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
CYP3Aは、通常小胞体関連分解系によりそのタンパク質自身が分解されることが報告されている。この背景から、アセトアミノフェンによるCYP3Aのタンパク質分解抑制の原因として、分解活性を有するプロテアソームに作用しているのか、分解シグナルであるユビキチンを付加するタンパクに作用しているのか調べる必要がある。また、オートファジーによる分解の寄与についても精査していく予定である。また、肝細胞スフェロイドだけでなく、神経細胞のスフェロイドにおいても薬物代謝酵素の発現・分解メカニズムも評価していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた研究の一つであった電子顕微鏡を用いた肝細胞や神経細胞スフェロイド形成の観察に関する研究を次年度に変更し、今年度は肝細胞のスフェロイドを主に用いた薬物代謝酵素のタンパク発現に関する検討や、薬物代謝酵素による代謝反応が寄与する肝毒性評価に注力したため使用額に変更が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では、当初予定していた肝細胞や神経細胞のスフェロイドの形成を電子顕微鏡を用いて観察する検討を行う予定であり、そのために必要な経費を充当する。
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