研究課題/領域番号 |
26293033
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高野 幹久 広島大学, 医歯薬保健学研究院(薬), 教授 (20211336)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 薬学 / 肺線維症 / 肺胞上皮Ⅱ型細胞 / 上皮間葉転換 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
肺線維症は、5年後の死亡率が約50%にも上るなど、極めて重篤な疾患である。薬剤性の肺線維症は抗がん剤など多様な薬物によって引き起こされるが、現在、その解析は遅れている。近年、線維化の原因として肺胞上皮Ⅱ型細胞の筋線維芽細胞への転換(上皮間葉転換(EMT))が注目されている。本研究では、肺胞上皮細胞を用い、薬物によるEMTの誘発や分子機構の解析とそれを検出するための分子バイオマーカーを明らかにすることを第一の目的とする。次に、治療薬・予防薬の開発に向け、EMTを抑制しうる化合物・薬物を探索・同定することを第二の目的とする。初年度の成果は以下の通りである。 1)ラット由来のRLE-6TN細胞から我々が樹立したRLE/Abca3細胞(Abca3遺伝子導入によって全体的にⅡ型形質が高まった細胞)およびヒト由来のA549細胞を用い、TGF-β1によるEMTの誘発について解析した。TGF-β1によってこれら細胞の形態が紡錘状の線維芽細胞様に変化し、またアクチンフィラメントの走行も繊維状に変化した。さらに上皮系マーカー遺伝子の発現低下、間葉系マーカー遺伝子の発現上昇が認められ、TGF-β1によってEMTが誘発されていることが示された。 2)次に、抗がん剤ブレオマイシンおよびメトトレキサートを用いて細胞を処置し、細胞の形態や遺伝子発現の変化について解析した。その結果、これら抗がん剤は、TGF-β1によるEMTと類似した変化を引き起こした。さらにRLE-6TN細胞とRLE/Abca3細胞でTGF-β1や抗がん剤処置の影響を比較したところ、我々が樹立したRLE/Abca3細胞のほうがより鋭敏にEMTを検出できることが明らかとなった。 3)TGF-β1によるEMTに対する特発性肺線維症治療薬ピルフェニドンの影響について検討したところ、ピルフェニドンはTGF-β1によるEMTの抑制効果を示さなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定のTGF-β1や抗がん剤によるEMT誘発解析に加えて、特発性肺線維症治療薬ピルフェニドンの効果についても、着手することができた。これにより、ピルフェニドンは肺胞上皮細胞に直接作用してEMT(線維化)抑制効果を発揮するのではなく、その他の部位における炎症性サイトカインの産生抑制や抗炎症性サイトカインの産生亢進を通じて間接的に効果を発揮するものと推察された。
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今後の研究の推進方策 |
抗がん剤がTGF-β1と類似した肺胞上皮細胞のEMT誘発作用を持つことが明らかになったが、その分子機構が不明なため細胞内情報伝達系等の変化も含め解析を進める。解析対象とする抗がん剤の種類についても拡充を図る。さらに、TGF-β1によるEMT誘発の抑制作用を持つ化合物・薬物を探索する。効果が認められたものについて、薬物誘発性EMTに対しても抑制作用を示すかどうか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、RLE/Abca3細胞およびヒト由来のA549細胞を用い、TGF-β1によるEMTの誘発について解析を開始し、その後、抗がん剤ブレオマイシンおよびメトトレキサートの影響解析へと展開した。これら化合物により、EMT様の変化が誘発されていることを明らかにすることができた。一方、EMTの抑制を目的として、ピルフェニドンの影響を検討したが、抑制効果は観察されなかった。この検討に時間を要し、他のEMT抑制候補物質の検討には到らなかったため、化合物購入費用の一部を翌年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
EMTを誘発する可能性のある抗がん剤およびTGF-β1によるEMT誘発の抑制作用を持つ化合物を種々購入し、系統的な検討を進める。
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