研究課題
薬剤性の肺線維症は抗がん剤など多様な薬物によって引き起こされるが、その機構解析は遅れている。近年、線維化の原因として肺胞上皮Ⅱ型細胞の筋線維芽細胞への転換(上皮間葉転換(EMT))が注目されている。本研究では、肺胞上皮細胞を用い、薬物によるEMT誘発の分子機構の解明とそれを検出するためのバイオマーカーを明らかにすることを第一の目的とする。次に、予防法の開発に向け、EMTを抑制しうる化合物を探索・同定することを第二の目的とする。平成27年度の成果は以下の通りである。1)ヒト由来A549細胞をメトトレキサート(MTX)で処置したところ、EMT様変化が誘発され、TGF-β1処置の場合と同様、Smad2のリン酸化が亢進した。さらに、TGF-β1のシグナル伝達を阻害するSB431542をMTXと併用したところ、細胞形態やmRNA発現から見たEMT様変化やSmad2のリン酸化が抑制された。しかし、TGF-β1の中和抗体を培養液中に添加してもMTXによるEMT誘発には影響を与えなかった。従って、MTXによるEMT誘発には、TGF-β1処置と類似したシグナル伝達経路が関与するが、TGF-β1のオートクリンは関与しないものと考えられた。2)ラット由来でⅡ型の形質を高めたRLE/Abca3細胞において、アスコルビン酸およびケルセチンは、TGF-β1、MTX、ブレオマイシン(BLM)によるEMT様の細胞形態変化を顕著に抑制したことから、肺線維症抑制物質として有望と考えられた。3)RLE/Abca3細胞をTGF-β1やBLMで処置したところ、miR-34aの発現上昇およびその標的遺伝子で細胞間接着に関与するNectin-1の発現減少が観察された。従って、miR-34aがEMTの新たなバイオマーカーとなる可能性やNectin-1の発現減少がEMT誘発に関与する可能性が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していた抗がん剤によるEMT誘発の分子機構に関して、TGF-β1およびそのシグナル伝達経路の関与について明らかにすることができた。また、EMT抑制剤についても、有望な化合物(アスコルビン酸、ケルセチン)を見出すことができた。それらに加えて、マイクロRNAであるmiR-34aが、肺胞上皮細胞のEMTおよび肺線維症の新たな分子バイオマーカーとして利用できる可能性を見出した。
今後はさらに、肺障害性薬物で処置した細胞の培養上清を用いて、TGF-β1以外のEMT誘発因子が放出されオートクリン的に働いていないかどうか検討する。また、アスコルビン酸やケルセチンなど、薬物誘発性のEMT様細胞形態変化を抑制した化合物について、上皮系・間葉系マーカー遺伝子やmiR-34aの発現変化の面からもEMT抑制効果を有するか否か解析するとともに、対象化合物を増やして検討する。さらに、ラットを用いてブレオマイシン肺障害モデルを作成し、上皮系・間葉系マーカー遺伝子やmiR-34aが薬剤誘発性EMTのマーカーとしてin vivoでも利用可能かどうか検討を開始する。
今年度は、ヒト由来A549細胞を用いてメトトレキサート(MTX)による上皮間葉転換(EMT)誘発のメカニズム解析を行うとともに、ラット由来でⅡ型の形質を高めたRLE/Abca3細胞を用いてTGF-β1、MTX、ブレオマイシン(BLM)誘発性のEMT様細胞形態変化を抑制し得る物質の探索を行った。その際、後者については、既に研究室で保有している化合物を中心に抗EMT作用のスクリーニングを行ったため、化合物購入用予算に一部繰越が生じた。
TGF-β1および肺障害性薬物によるEMT誘発の抑制作用を持つ可能性のある新たな化合物を種々購入してスクリーニングを行い、抗線維化薬の開発に向けてさらなる検討を進める。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 8件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 1件)
Drug Metab. Pharmacokinet.
巻: 30 ページ: 111-118
org/10.1016/j.dmpk.2014.10.007
巻: 30 ページ: 276-281
org/10.1016/j.dmpk.2015.04.005
Pharm. Res.
巻: 32 ページ: 3916-3926
10.1007/s11095-015-1751-x.
Membrane
巻: 40 ページ: 296-303
Expert Opinion on Drug Delivery
巻: 12 ページ: 813-825
10.1517/17425247.2015.992778
巻: 40 ページ: 21-28
Life Sciences
巻: 124 ページ: 31-40
org/10.1016/j.lfs.2015.01.011
Cancer Chemother. Pharmacol.
巻: 76 ページ: 713-721
10.1007/s00280-015-2837-1.