研究課題
本年度は、ヒトiPS細胞から成熟腸管上皮細胞を作製し、誘導性の評価が可能なモデル系を構築することを目的とした。ヒトiPS細胞は国立成育医療研究センター研究所において樹立されたヒトiPS細胞株を用いた。ヒトiPS細胞はアクチビンAで内胚葉、線維芽細胞増殖因子2で腸管幹細胞へ分化させた。その後、上皮成長因子で腸管上皮細胞へ分化させた。低分子化合物はある期間に添加した。薬物代謝酵素誘導実験では、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3を細胞回収前に48時間処理した。ペプチドの取り込み実験では、β-Ala-Lys-AMCAを5% CO2/95% air条件下CO2インキュベーター中37°Cでインキュベートした後、細胞内取り込みを顕微鏡下で観察した。その結果、ある低分子化合物を用いることで腸管上皮細胞マーカーであるスクラーゼ・イソマルターゼや主要な薬物代謝酵素であるCYP3A4の発現の上昇が認められた。また、この腸管上皮細胞様細胞は重要な排出トランスポーターであるP-gpやBCRPの発現や、各種薬物代謝酵素活性(CYP1A1/2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4/5、UGT、SULT)、ペプチドトランスポーターを介したペプチドの取り込み能も認められた。さらに、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3を処理することで、CYP3A4のmRNA発現および活性の誘導も認められた。今回我々が見出した低分子化合物を用いて分化誘導させた細胞は、スクラーゼ・イソマルターゼをはじめとした腸管上皮細胞マーカーやP-gp、BCRPなどの薬物トランスポーター、主要な薬物代謝酵素であるCYP3A4を発現していた。また、薬物代謝酵素活性やペプチドの取り込み能に加え、1α,25-ジヒドロキシビタミンD3による誘導能も認められ、腸管上皮細胞様の性質を有している事が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
ヒトiPS細胞から分化誘導した細胞に腸管上皮細胞のマーカー遺伝子の発現が認められた。また、その発現を高め、分化誘導を促進する低分子化合物を見出した。さらに、薬物代謝酵素活性が検出された。特に、腸管で最も主要な薬物代謝酵素であるCYP3A4の発現が活性型ビタミンD3により誘導されることを見出した。この様に、当初の研究目的に対しておおむね順調に進展していると言える。
電子顕微鏡を用いた細胞形態学的解析については、サンプル調製を行ったが、電顕用試料の調製の際に容器が有機溶媒で溶解したために、再検討が必要になった。また、iPS細胞由来肝細胞及び腸管上皮細胞のマイクロアレイ解析については、現在解析を行っているところである。これまでの研究においては、薬物代謝活性や薬物トランスポーターの発現がまだ十分とは言えなかったことから、今年度は分化誘導法をさらに改良する。また、iPS細胞から分化することは、時間的にも大いに無駄があることから、産業応用も視野に入れ、来年度予定している腸管幹細胞の単離法の開発を進める。
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PLoS One
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Drug Metab Pharmacokinet
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