研究課題/領域番号 |
26293037
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
川崎 ナナ 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 部長 (20186167)
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研究分担者 |
多田 稔 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 室長 (50506954)
石井 明子 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 室長 (50291117)
小川 久美子 国立医薬品食品衛生研究所, 安全性生物試験研究センター病理部, 部長 (70254282)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 個別化医療 / 抗体医薬品 / 糖鎖 / 薬効 / 体内動態 |
研究実績の概要 |
抗体医薬品の薬効発現には標的分子との結合が関与しており、これら標的分子の多くは糖タンパク質である.本研究は,これら標的分子の糖鎖構造を解析し,その多様性と薬効発現の関係の解明を目的とする. 今年度は主に以下の成果が得られた. 1.特異的抗体を用いたEGFRの単離. セツキシマブの標的分子であるEGFRは生体微量成分であり, EGFRを単離・濃縮することが糖鎖構造を明らかにする上で重要である.そこでまず,特異的抗体を用いた免疫沈降によるEGFRの単離・濃縮を目指し研究を行った.EGFR高発現細胞株であるヒト上皮様細胞癌由来細胞株の細胞表面タンパク質を含む不溶性画分を用いて,セツキシマブによる免疫沈降系を確立し,ポリアクリルアミドゲル電気泳動でEGFRの精製効率を確認した. その結果, 170 kDa近傍に主要なバンドが検出され,このバンド成分のトリプシン消化物のLC/MS/MSでは,筆頭タンパク質としてEGFRが同定された.また,主に高マンノース型N-糖鎖を遊離させるエンドグリコシダーゼ-Hを用いて,EGFR糖鎖の構造特性の解析に成功した. 2.EGFR糖鎖構造解析に向けた試料調製法の最適化. ポリアクリルアミドゲルで分離された生体微量成分の糖鎖構造解析は一般的に難しくこれまでに解析された例はほとんどない.そこでまず,我々が独自に開発した“ゲル内糖タンパク質の糖鎖解析法”の最適化を行った.ゲルから回収されたEGFR糖ペプチドからN-グリコシダーゼ消化により糖鎖を除去し,糖鎖付加部位に生じたアスパラギンの脱アミド化をLC/MS/MSにより解析することで,EGFR糖鎖解析への適用性を評価した.その結果,予想されるN-結合型糖鎖結合ペプチドが同定され,本手法のEGFR糖鎖構造解析への適用性が示されるとともに,糖ペプチドのカラム保持時間等における知見を得ることに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,抗体医薬品の標的分子の糖鎖構造を解析し,その構造多様性と薬効発現との関連性を明らかにすることである.生体微量成分であるEGFRの糖鎖構造を解析するために,初年度ではまずEGFRの単離を検討した.EGFRに対する特異抗体であるセツキシマブを用いることにより,ポリアクリルアミドゲル上でほぼ単一成分としてEGFRを分離・同定することに成功した.また,我々が独自に開発した“改良ゲル内消化法”のEGFRへの最適化に加え,エンドグリコシダーゼを用いたEGFRの構造特性解析も完了した.既に当初の研究計画目標であったEGFRの糖鎖構造解析に着手しており,研究はおおむね順調に進行している.
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今後の研究の推進方策 |
引き続きEGFR高発現癌細胞株であるA431(ヒト上皮様細胞癌由来細胞株)のEGFR糖鎖構造の全容解明を目指す.糖鎖構造解析にあたっては,前年度に確立したEGFRの単離・試料調製法を用い,エンドグリコシダーゼにより明らかにした糖鎖の構造特性,並びに,糖ペプチドのカラム保持時間やトリプシンによる切断パターン等の知見を活用する.さらに,解析する試料の種類を異なる癌組織・正常組織,ロット等にまで広げ,糖鎖構造の多様性と薬効発現との関連性を明らかにする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞由来サンプルを分析するため,ナノLC/MS/MSシステムへの影響を考慮し,ナノカラム及びスプレーチップ等の消耗品を多めに計上していたが,本研究の中で,免疫沈降法と我々が開発したアセトン沈殿を組み合わせることにより,目的とする糖タンパク質由来糖ペプチドを選択的に濃縮する方法を開発することができたため,カラムやスプレーチップの消耗を抑えることができた.そのため,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
代表研究者の異動に伴い研究員を雇い入れることが可能となったので,研究の推進のため,次年度使用額を研究員の採用に使用する.
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