研究課題
シナプスの形態および機能を制御する分子機構の解明は、「記憶」の過程を理解する上で重要である。近年、免疫系を支える補体C1qが中枢シナプスの除去 (刈り込み) に寄与することがわかってきた。また、我々はC1qファミリーに属するCbln1が小脳平行線維―プルキンエ細胞シナプスの形成・維持に必須であることを報告した (Science, '10)。興味深いことに、新しいC1qファミリー分子であるC1q様分子1 (C1qL1) は、プルキンエ細胞への強い興奮性入力を担う登上線維 (CF) シナプスに高発現するが、その機能は不明である。そこで本研究では、登上線維シナプスにおけるC1qL1の役割を解明することにより、C1qファミリー分子の普遍的かつ新しい動作原理の確立をめざす。今年度は、C1qL1遺伝子発現を欠くC1qL1-KOマウスを作製し、その異常表現型を解析した。野生型マウスの場合、幼若期では1つのプルキンエ細胞に対して複数のCFが投射しているが、発達に伴ってCF間に強弱が生じ、弱い線維が刈り込まれ、強い線維がより強化されることで、成熟期では1本の強いCFシナプスのみが残る。しかしながら、C1qL1-KOマウスでは、強いCFシナプスのさらなる強化が認められず、その結果として、他の弱いCFシナプスの刈り込みが顕著に障害されることがわかった。また、プルキンエ細胞に発現し、C1qL1と選択的に結合する細胞接着型Gタンパク共役受容体BAI3を欠いた遺伝子欠損マウス (BAI-KOマウス)においても、CFシナプスの刈り込み障害が認められた。さらに、野生型マウスにおいて、刈り込み後に完成されたCFシナプスに局在するC1qL1を急性除去すると、いったん形成されたシナプスが失われ、小脳依存的な運動記憶・学習機能が著しく低下することもわかった (Kakegawa et al., Neuron, '15)。
1: 当初の計画以上に進展している
これまでに得られたC1qL1に関する新所見は、本研究の大きな目標のひとつである、「中枢シナプスの普遍的形成・機能制御機構の分子的理解」のために有益な情報を与えうるものと確信している。また、これまでの成果は、米国科学雑誌「Neuron」に掲載され、〝Featured Article (注目すべき論文)”として取り上げられた。そのため、本研究課題は、現時点で「当初の計画以上に進展している」と言える。
今後は、C1qL1が介するCFシナプスの強化・刈込過程の詳細な分子機構を明らかにするとともに、C1qL1の動態についてもさらに解析していきたい。
当該研究費で購入予定であった機器を、同時期に採択された他の研究助成より購入したため。当該研究と他の研究において研究内容は根本的に異なるが、解析方法の一部は共通していることから、上記対応をとった。
前年度残額および今年度の予算を合算し、今年度の実験に必要な設備備品の購入を考えている。また、取得した実験データをより効率的に解析するため、高性能PCの導入も考えている。
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http://www.yuzaki-lab.org/