研究課題
近年、「記憶」を担うシナプスの形成および機能制御の詳細な分子機構の解析がなされている。その中で、免疫系を支える補体C1qやその類似分子群であるC1qファミリー分子が、中枢シナプスの形成や維持、そして除去 (刈り込み) 過程に寄与することが分かってきた。本研究では、新規C1qファミリー分子であるC1q様分子群(C1qL1-4)に着目し、各脳領域に選択的に発現するC1qL分子群の機能様式を解明することにより、C1qファミリー分子の普遍的かつ新しい動作原理の確立をめざす。今年度は、海馬顆粒細胞に豊富に発現するC1qL2およびC1qL3に焦点を当て、両分子の発現を欠く遺伝子欠損マウス(C1qL2/3 DKOマウス)を作製し、その表現型を解析した。その結果、C1qL2/3 DKOマウスでは、海馬顆粒細胞-CA3錐体細胞シナプスにおいてシナプス数の増減は認められなかったものの、同シナプスに選択的に局在するカイニン酸型グルタミン酸受容体(以下、カイニン酸受容体)がほぼ完全に消失することが分かった。また、興味深いことに、in vitro実験系において、C1qL2/3はカイニン酸受容体と直接結合し、シナプス前部に発現するニューレキシンと三者複合体を形成することで、同シナプスでのカイニン酸受容体局在を制御していることが明らかになった (Matsuda et al., Neuron, ’16)。以上の結果は、分泌性C1qファミリー分子がシナプスの形態・機能を制御するばかりでなく、シナプスに局在する受容体の発現・分布をダイナミックに調節していることを示唆する。
1: 当初の計画以上に進展している
今回明らかにされたC1qL2/3の新たな機能は、中枢シナプスの普遍的形成・機能制御機構の理解を進める上で有益な情報となりうる。そのため、本研究課題は、現時点で「当初の計画以上に進展している」といえる。
これまでの結果により、C1qL1はBAI3(brain-specific angiogenesis inhibitor 3)に結合し、また、C1qL2/3はカイニン酸受容体と結合することが分かった。今後は、神経活動に応じてこれらの相互作用がどのように変化し、調節されるかを明らかにしていきたい。
当該研究費で購入予定であった機器を、同時期に採択された他の研究助成より購入したため。当該研究と他の研究において、研究内容は根本的に異なるが、解析方法の一部は共通していることから、上記対応を取った。
前年度残額および今年度の予算を合算し、今年度の実験に必要な設備備品の購入を考えている。
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Neuron
巻: - ページ: -
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http://www.yuzaki-lab.org/