研究課題/領域番号 |
26293043
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
檜山 武史 基礎生物学研究所, 統合神経生物学研究部門, 助教 (90360338)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 生理学 / 循環器・高血圧 / 行動学 / 生物物理 / 脳・神経 |
研究実績の概要 |
ヒトを含む哺乳動物は、脳の感覚性脳室周囲器官において、体液のNa+レベルや浸透圧を監視するとともに、アンジオテンシンII などの血中ホルモンを介して末梢からの情報を受け取り、水分/塩分の経口摂取量の制御(水分/塩分に対する欲求の制御)と腎臓における排泄/再吸収の制御を統合的に行っている。私は、マウスをモデル動物として感覚性脳室周囲器官のNax チャンネルが体液Na+レベルセンサーであること、TRPV1 チャンネルが体液浸透圧センサーとして機能し得ることなどを明らかにしてきた。本研究は、これらの研究成果を基盤に、解剖学的解析、行動学的解析、光活性化型チャンネルを用いた神経伝達のin vivo 光制御、ウィルスを用いた遺伝子導入・発現等を組み合わせ、中枢において感知された体液情報に基づいて水分/塩分に対する欲求が出現する神経機構の解明を目指して進めている。本年度の実績は以下の通りである。 1. Naxのニューロンにおける機能特性の解析:チャンネル分子Naxは脳室周囲器官のグリア細胞においてNa+レベルセンサーとして機能している。しかし、ニューロンにおける機能特性は不明のままであった。本年度、大脳皮質と扁桃体の一部のニューロンにおいてNaxの発現を確認した。ニューロン由来の株化細胞に発現させたNaxを機能解析し、グリア細胞に発現するNaxと同様にNa+レベル感受性を示すことを明らかにした。 2. Naxの末梢神経系における役割:Naxは末梢神経系では非ミエリン化シュワン細胞に発現している。末梢神経の軸索は切断後に再伸長するが、その過程にNaxを介した乳酸分泌が関与することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水分/塩分欲求制御機構の解明を解明するため、塩分欲求性に関わるNa+レベルセンサーNaxとアンジオテンシンII信号伝達系の役割、水分欲求性に関わる浸透圧センサー候補分子の検討と新たな浸透圧センサー分子の探索などを課題として進めてきた。いずれの課題についても成果があがっており、おおむね順調に進展している。 特に体液Na+レベルセンサー分子Naxについては、これまで、脳室周囲器官のグリア細胞における機能しかわかっていなかったが、本年度、ニューロンにおける機能を初めて明らかにすることに成功した。マウスNaxの部分配列を抗原とする抗体を新たに作成し、マウス脳におけるNaxの発現を詳細に検討し、大脳皮質と扁桃体の一部においてNaxがニューロンに発現していることを確認した。さらに、Naxを異所性に発現するニューロン由来の株化細胞を新たに作成し、NaxのNa+依存性等を詳細に検討した結果、グリア細胞に発現するNaxとほぼ同等の機能特性を有することを明らかにした。 また、私は、これまでに、エンドセリンによる調節機構の存在を報告していたが、本年度は、このエンドセリンによるNaxの活性化機構が末梢神経の軸索再生に関わるという予想外の結果を得て報告した(Eur J Neurosci., 2014)。
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今後の研究の推進方策 |
①脳弓下器官に発現する新たな脳内センサーの探索 脳弓下器官、終板脈管器官、大脳皮質、第三脳室周囲の組織を単離してmRNAを回収し、cDNAライブラリーを合成した後、次世代シーケンサーを用いて、それぞれの領域に発現する遺伝子を網羅的に解析した。それらを比較した結果、脳弓下器官に特異的に発現する遺伝子を数十以上同定した。その中からセンサー機能を有する可能性がある分子に着目し、脳弓下器官における発現をin situハイブリダイゼーション(ISH)法により確認する。発現が確認できた分子について、順次安定発現細胞を作成その細胞の透圧変化に対する応答を電気生理学的手法及びイオンイメージングを用いて観察する。 ②AT1a-KOマウスの水分/塩分摂取行動解析 AT1aノックアウトマウス(AT1a-KO)に利尿剤を投与して塩欠乏状態にし、2瓶法により水分と塩分の摂取量を調べる。また、野生型マウスの脳室にAT1a阻害剤を投与して同様の行動解析を行いAT1a-KOの行動と比較することで、脳内のAT1aの作用であるか確認する。また、感覚性脳室周囲器官のAT1a発現細胞の内、塩欠乏時に活性化する細胞が投射している神経核を明らかにする。さらに、内在性のAT1a遺伝子をloxP配列で挟んだAT1a-floxedマウスの特定の神経核にCreリコンビナーゼ遺伝子をコードした逆行性ウィルスを導入する。これにより、その神経核に投射しているニューロン特異的にCreリコンビナーゼが発現し、AT1a遺伝子が欠損する。このマウスを用いて、塩欠乏時の塩分摂取行動を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年7月、マウス脳内の神経細胞の活動を光制御するための光刺激装置の光強度が不足していることが判明した。この装置も独自に開発・製作した装置であったため、設計を変更し、新たに部品を取り寄せて装置を改善するために約6ヶ月を要した。研究費の内、基金分を27年度に繰り越すことによって対応する。
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次年度使用額の使用計画 |
光感受性タンパク質の遺伝子を組み込んだ逆行性ウィルスをマウスの脳内局所に感染させ、その領域に投射している神経細胞に光感受性タンパク質を発現させる。このマウスに光ファイバーを装着し、飲水行動や塩分摂取行動を観察しながら、光刺激をして、その影響を調べる。マウス、飼育費用、光刺激に用いるファイバー等の消耗品に使用する。
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