研究課題/領域番号 |
26293047
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
椛 秀人 高知大学, 教育研究部医療学系, 教授 (50136371)
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研究分担者 |
奥谷 文乃 高知大学, 教育研究部医療学系, 教授 (10194490)
谷口 睦男 高知大学, 教育研究部医療学系, 准教授 (10304677)
村田 芳博 高知大学, 教育研究部医療学系, 助教 (40377031)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 匂い / 学習 / 副嗅球 / 長期増強 / アクチン / 可視化 |
研究実績の概要 |
雌マウスに形成される交配雄フェロモンの記憶は妊娠の保障に不可欠である。このフェロモン記憶は、鋤鼻系の最初の中継部位である副嗅球に生じるシナプスの可塑的変化によって支えられている。交尾刺激により遊離されたノルアドレナリンやオキシトシンの働きを引き金として、新たに合成されたタンパク質を含め、種々の情報分子が関わり、僧帽細胞から顆粒細胞への興奮性シナプスに超微形態学的変化が生じることを示してきた。また、この記憶の電気生理学的相関としてのシナプス伝達効率の長期増強(LTP)も副嗅球スライス標本において示してきた。昨年度は、このLTPの後期相(L-LTP)にプロテインキナーゼC(PKC)の非典型PKCのひとつであるPKMζが関わることを明らかにした。本年度はLTPに対するアクチン重合化の関与を検討した。実験は前年度と同様に、副嗅球の急性スライス標本を作製し、顆粒細胞に発生する興奮性シナプス後電位を反映する集合電位(fEPSP)を記録する方法を用いて行った。外側嗅索にテタヌス刺激を与えると、fEPSPのスロープ値は増大し、180 minに渡って維持され、L-LTPの成立が確認された。この条件下でアクチン重合阻害薬・サイトカラシンDを灌流投与したところ、テタヌス刺激後0 min、30 minでは変化が見られなかったが、150 minでfEPSPのスロープ値はテタヌス刺激前のレベルに戻った。一方、アクチン重合促進剤・ジャスプラキノリドの灌流投与下で、短期増強のみ誘導されるテタヌス刺激でL-LTPが成立した。以上の結果は、副嗅球シナプスにおけるL-LTPの成立にはPKMζに加えてアクチン重合化が関与することを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雌マウスに形成される交配雄フェロモンの記憶のメカニズムの解析では、この記憶の電気生理学的相関として、副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞への興奮性シナプス伝達効率の長期増強(LTP)を副嗅球スライス標本において示してきた。本年度はこのLTPの後期相(L-LTP)にアクチン重合化が関わることを明らかにした。一方、フェロモンの記憶形成へと導く連合刺激(交尾 + フェロモン曝露)によって活動する神経細胞集団(c-fos遺伝子発現)に選択的な可視化遺伝子(GFP)操作がドキシサイクリン非存在下で行えるトランスジェニック(Tg)マウスを用いて、交尾1日後に副嗅球スライス標本を作製し、共焦点レーザー顕微鏡下で可視化されたGFP(+)フェロモン記憶細胞(僧帽細胞と顆粒細胞)から全細胞記録を行い、シナプス結合度などの特性をGFP(-)非記憶細胞のそれと比較検討する実験では、当初、性周期が回帰する正常雌マウスを使っていたため、ドキシサイクリンを飲料水から抜いてから4日後に交尾をさせるという日程調整が必ずしもうまく行かなかった。このスケジュールを確実に実行できるように、エストロゲン+プロゲステロン前処置卵巣摘出Tgマウスを使って再度27年度に検討することとした。
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今後の研究の推進方策 |
雌マウスにおける交配雄フェロモンの記憶形成は、副嗅球の特定の僧帽細胞と顆粒細胞の活性化によってもたらされる。フェロモンの記憶形成へと導く連合刺激(交尾 + フェロモン曝露)によって活動する神経細胞集団(c-fos遺伝子発現)に選択的な可視化遺伝子(GFP)操作が行えるトランスジェニック(Tg)マウスを用いる。これらのTgマウスは、ドキシサイクリンを飲料水から抜いてから4日後に確実に交尾させることができるように、卵巣摘出後、エストロゲンとプロゲステロンで前処置したものを用いる。ドキシサイクリンを飲料水から抜いてから4日後にエストロゲン+プロゲステロン前処置卵巣摘出Tgマウスを交尾させ、翌日に副嗅球スライス標本を作製し、共焦点レーザー顕微鏡下で可視化されたGFP(+)フェロモン記憶細胞(僧帽細胞と顆粒細胞)から全細胞記録を行い、シナプス結合度などの特性をGFP(-)非記憶細胞のそれと比較検討する。 フェロモン記憶の基礎過程としての副嗅球の僧帽細胞から顆粒細胞への興奮性シナプス伝達効率の長期増強(LTP)のメカニズムの解析では、アクチン重合化と深い繋がりを持つ細胞内シグナル分子の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
トランスジェニックマウスを用いた実験の一部を次年度に繰り越したため、試薬代等の物品費20万円を繰り越すことになった。それに伴い、成果発表及び論文校正に係る費用も各10万円づつ繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越した助成金は27年度分として請求した研究費と共に、主としてトランスジェニックマウスを用いた実験に使用し、また、それに伴い増加が見込まれる成果発表及び論文校正に係る費用に当てることを計画している。
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