研究課題
1. 10q25の解析:平成27年度はin vitro実験を主に行い、2つのことが明らかになった。10q25近傍遺伝子NeurlはユビキチンE3リガーゼで、heat shock protein 27(hsp27)をユビキチン化→タンパク質分解する。NeurlをKDすると筋変性が起こり、この時hsp27を同時にKDしておくと筋変性がレスキューされる。Hsp27はアクチン重合を阻害することから、neurl発現低下によりhsp27発現が増加し、これがアクチン重合阻害をすることにより筋変性が誘導されたものと考えた(論文作成中)。また、NeurlのKDによりオートファジーが誘導された。GWASに用いたSNPsすべてを使ったMGENTA解析によりmTOR経路が心房細動と関係することが示唆された。mTOR経路はオートファジーを負に制御することが知られているが、Neurl KD細胞ではmTORのリン酸化、すなわち活性化が抑制されていたことから、mTORによるオートファジーの脱抑制がオートファジー誘導につながったものと考えた。2. 高脂肪食で誘導されるmiRNA27-b心房細動のリスク因子の1つに脂質異常症がある。そこで、高脂肪食で飼育したマウスでmiRNAアレイを行い、発現が変化するmiRNAを探索した。13 miRNAsで発現が2倍以上、17 miRNAsが1/2以下となり、またp値が0.01以下となった。この中で、バイオインフォマティクスで心房筋の電気的リモデリングに関係する遺伝子を標的とすることが示唆されたmiRNA27-bを標的に検討を進めた。その結果、miRNA27-bはCx40を標的とし、心房細動時にmiRNA27-b上昇がCx40の発現低下→心房の伝導障害をもたらし、これが心房細動発症と関連することが明らかとなった(論文発表)。
2: おおむね順調に進展している
本計画の主要な目的は、心房細動の全ゲノム関連解析(GWAS)で得られた情報を臨床応用するための橋渡しをすることにある。過去2年間の研究で複数の論文を発表することができ、また臨床への橋渡しをするためのシーズを複数見つけることができたことから、概ね順調に進展していると判断する。
本年度は最終年度にあたるため、これまでの研究からより実用に近いもののoutputを目指した研究に重点を置くこととする。1. レアSNPから同定された心房細動感受性遺伝子の機能解析コモン疾患コモン多型(CDCV)仮説に立脚しコモン多型を対象とする全ゲノム関連解析(GWAS)では遺伝性の50%以下しか明らかにならず、レア多型にもコモン疾患に関係するものがあるだろうとするコモン疾患レア多型(CDRV)仮説が提唱されるようになっている。エクソン上にあるレア多型を対象としたEWASにより、オッズ比の高い1つのSNPが同定された。同SNPは酸化ストレスに関係する遺伝子上にあることから、心房細動との関連が強く示唆され、またオッズ比が高いことから新たな創薬標的となることが期待される。そこで、本年度は同遺伝子の機能解析を行う。まずin vitroで同多型の活性酸素産生への影響を検討するため、野生型と多型遺伝子を心筋細胞に導入し、アンジオテンシンII(AngII)刺激を行い、活性酸素の発生量を比較する。In vitro実験で同多型と活性酸素発生の関連性が確認されたら、同多型をもつマウスを作製し、in vitroでの心房不整脈発生への影響を調べる。また、同遺伝子に介入する低分子化合物のスクリーニング系を構築する。2. 肺静脈特異的分子に介入する低分子化合物のスクリーニングGWAS研究から肺静脈心筋細胞に特異的に発現する分子が心房細動発生に関与することが示唆された。今までの心房細動治療薬は心房筋に発現する分子を標的とするである、肺静脈心筋細胞に発現する分子を標的とする創薬は行われていない。そこで、同分子のハイスループットスクリーニング系を構築し、低分子化合物のスクリーニングを行う。
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