研究課題
薬物依存やギャンブル依存の他、統合失調症などの多くの精神疾患において、意思決定の異常が認められるが、そのメカニズムは不明であり、有効な治療法も開発されていない。これまでに我々は、意思決定を定量的に解析可能なラット用ギャンブルテストを独自に考案し、覚せい剤依存誘発性意思決定障害モデルの作製に成功した。本研究では、Designer Receptor Exclusively Activated by Designer Drugs (DREADD)システムを駆使して、意思決定に関わる神経回路の機能と分子機構の解明を目指す。さらに、意思決定障害の治療を可能とする創薬標的の同定を行う。平成26年度は、DREADD システムを用いてhM3DqあるいはhM4Diを発現した神経細胞の活動を特異的リガンド(CNO)で制御(活性化あるいは抑制)し、ラットの意思決定を薬物で操作することを試みた。その結果、島皮質にhM3Dqを過剰発現させたラットにCNOを投与し、島皮質が活性化した状態でギャンブル試験を実施すると、ハイリスク・ハイリターンの選択行動が増加した。一方、覚せい剤依存ラットの意思決定障害は、島皮質にhM4Diを発現させ、CNOを投与して島皮質の活動を抑制すると緩解した。その他の研究実績として、GABA作動性神経特定的制御を目指し、GADプロモーター制御によるウイルスベクターの感染効率をin vivo実験で確認した。また、大脳基底核直接経路の制御を目指し、サブスタンスPプロモーター制御によるウイルスベクターの感染効率についてもin vivo実験で確認した。さらに、覚せい剤依存誘発意思決定障害に対してニコチンが改善効果を示すことを見出した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通りに順調に進んでいる。ただし、cre-loxシステムと比べ、TetO-tTAシステムに若干の不安定さがあることから、個体間のばらつきがあり、再現性を得るために例数追加実験を行っている。
平成26年度に引き続き来年度以降は、サブスタンスPプロモーター制御下にhM3DqあるいはhM4Di発現ベクターを用いて意思決定における大脳基底核・直接経路の役割を解析する。また、新たにエンケファリンプロモーターで発現制御するDREADDを用いて、意思決定における間接経路の役割を解析する。神経活動を抑制するhM4Diは細胞膜への移行性がhM3Dqに比較して悪いため、計画が予定通りに進まない可能性もある。その場合には、研究協力者でありDREADDシステムのパイオニアである山中章弘教授と共同でhM4Diの改良を検討する。研究が順調に進んだ場合には、ドーパミン神経活動をDREADDで制御し、大脳基底核に入力する報酬予測誤差シグナルが意思決定に及ぼす影響についても調べる。また、覚せい剤依存モデルラットの島皮質に種々のMEK1ウイルスベクターを局所投与し、意思決定障害における島皮質MAPキナーゼの役割を解析する。WT-ERK2あるいはDN-ERK2を脳内局所(黒質あるいは腹側被蓋野)に投与すると快反応や社会性行動などが変化することが報告されている。したがって、意思決定においてもMAPキナーゼシグナルが重要な役割を果たしている可能性は高い。そこで、ギャンブルテスト後のERK1/2およびGAPのリン酸化レベルをウエスタンブロット法により調べ、意思決定における内在性MAPキナーゼの動態を明らかにする。さらに、島皮質と同様の方法を用いて大脳基底核におけるMAPキナーゼシグナルの役割を調べる。MAPキナーゼシグナルの機能と分子動態の解析が順調に進んだ場合には、RNA干渉法などを用いてMAPキナーゼの下流シグナル分子(前述のGAPなど)の機能解析を進める。
物品費を節約して購入したため。
平成27年度の物品費として使用予定。
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http://www.med.nagoya-u.ac.jp/pharmacy/