研究課題
哺乳類の心筋細胞は生直後に分裂能を失うため、心臓は再生能力が低い臓器とされてきた。確かに、心筋梗塞により傷害を受けた心筋組織は、組織修復能をほとんど示さないため、臨床的にも心筋梗塞後に慢性心不全に至る症例が数多く認められる。しかしながら、一方で、ウイルス性心筋炎の症例の多くで、炎症後心筋組織が修復されることは広く受け入れられているものの、そのメカニズムは明らかにされていない。本研究では、ウイルス性心筋炎の炎症モデルである実験的自己免疫性心筋炎(EAM)モデルを用いて、炎症により傷害をうけた心筋組織が修復・再生する過程を分子レベルで解析し、新たな心筋再生技術を開発することを目的として研究を進めている。これまで以下の2点を明らかにしてきた;1. 炎症により萎縮していた心筋細胞は、回復期にprotrusionを形成して形態学的回復を示す。その過程で、細胞骨格蛋白の再構成が重要であることがプロテオミクス解析より明らかになった。2. 炎症からの回復期に、心筋細胞の増殖が認められ、数量的回復に寄与している可能性が考えられた。炎症性サイトカインシグナルが心筋に増殖シグナルを伝達する可能性が遺伝子改変動物を用いた実験より明らかになった。以上の結果から、哺乳類成体(Adult)心臓は、特に炎症病態下においては、従来考えられていた以上に再生能を示すことが示唆された。哺乳類成体心臓が有する内因性の再生能を活性化することにより新たな心筋再生技術が開発できるものと期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで哺乳類成体(Adult)の心臓は著しく再生能が低い臓器と考えられてきた。本研究では、成体心臓において、炎症病態下では顕著な心筋再生が認められることを、形態学的再生(細胞骨格の再構成)と数量的再生(心筋細胞増殖)という点から明らかにし、さらに、その分子基盤に言及し得た点で、予想以上にスムーズに進んだものと評価できる。特に、このような炎症後の組織修復・再生にフォーカスをあてた研究はこれまで数少なく、全くの未開の研究領域であることを考えると、今回得られた知見は、新たな概念を提唱する可能性があり今後の進展が期待される。
本研究は、(i)細胞骨格の再構成、(ii)心筋細胞増殖、という二つの観点から研究を進める。(i)細胞骨格の再構成:これまで、炎症からの回復期に心筋細胞でモエシンの発現量および活性型(リン酸化)モエシンの量が増加することを明らかにしてきた。また、心筋細胞にモエシンを過剰発現させると心筋細胞がprotrusionを形成することを示してきた。これまで、心筋細胞のprotrusionは心臓の再生と関連があると報告されているが、そのように再生に寄与するかは明らかでない。そこで、本年度は、心筋細胞におけるprotrusion形成の意義を明らかにする。(ii)これまでの結果から、EAM炎症病態下の心筋細胞では、STAT3分子が活性化されていることを見出してきた。STAT3分子をノックアウトすると、EAMからの回復に障害が生じるとともに、心筋細胞の増殖が抑制された。STAT3の活性化は、梗塞後心筋組織でも認められるが、心筋細胞増殖はほとんど認められない。梗塞後心筋と異なり、EAM炎症病態における心筋細胞がどのようにして、増殖能を獲得するかを今後解明する必要がある。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Cardiovasc. Res.
巻: 109 ページ: 272-282
10.1093/cvr/cvv273.
Heart and Vessels
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol.
巻: 309 ページ: H471-480
10.1152/ajpheart.00730.2014.
Cytokine
巻: 75 ページ: 365-372
10.1016/j.cyto.2015.06.009.