研究課題
放射線治療は癌治療の一つの柱であり今後益々期待される。放射線照射後の細胞反応は詳細な理解が進んでいるが、多くは正常細胞でのものである。一方、癌細胞は多様なゲノム変異を有し、多くに生存性維持/細胞死誘導機構の障害が認められる。従って、癌細胞の放射線照射後の振る舞いに関しては、癌的ゲノム変異も考慮した癌特性ごとの解析が必要である。我々は、これまでの一連の研究成果として、癌の浸潤転移特異的なArf6経路を明らかにしたが、最近、本経路は乳癌放射線抵抗性の根幹でもあることを明らかにした。本研究は、浸潤転移性が亢進し悪性度の進展した、乳癌細胞の放射線抵抗性の根本的機序を明らかにすることを目的とする。昨年度までの解析の結果、Arf6経路は悪性乳癌細胞において、ミトコンドリアの細胞内分布に関連しており、本経路の阻害によってミトコンドリアが核周辺に集積してしまうことを見出した。多くの悪性癌ではミトコンドリアの量が増加している。一方、ミトコンドリアはその正常なATP合成過程において、避けがたい活性酸素(ROS)産生を伴う。したがって、量的に増えたミトコンドリアにおいて、お互いの間隔がある程度以上空いていないと、お互いが産生するROSによって互いに酸化的損傷を受ける。Arf6経路は運動性亢進を担うが、その際、微小管の再構成を伴う。多くのミトコンドリアは微小管に沿って存在する。したがって、これらのことは、悪性癌は必然的に動き回らざるを得ないこと、そのことによって、自らの有するミトコンドリアが類焼しないようにしているものであると解釈された。現在、詳細な分子機序もほぼ明らかにし、論文にまとめる最終段階である。当該結果は特許申請を行った。
1: 当初の計画以上に進展している
予定よりも大きな成果が得られている。昨年度までに、Arf6経路がどのように乳癌の放射線抵抗性と関係するのか、その詳細な分子実態を明らかにした。すなわち、これ迄に、Arf6を中心とした細胞内シグナル経路を発見し、それが乳癌をはじめ様々な種類の癌の浸潤転移に関与していることを明らかにして来たが、本研究においては、悪性度の進展した乳癌細胞において、本経路がそれらの放射線抵抗性の本体であることを見出した。引き続き、その分子機序に関して解析を進め、本経路はミトコンドリアの細胞内配置に深く関連すること、Arf6経路を阻害するとミトコンドリアが核周辺に集積し、そのことが放射線抵抗性の低減をもたらすことを明らかにした。分子機序として、ミトコンドリアのanterograde輸送とArf6経路活性とが密接に関係していること、そのことによって、Arf6経路がミトコンドリアを細胞内でなるべく間隔を空けて配置することに関与していることを、その際に関与するミトコンドリアモーターも含めて同定した。一方、別の研究費で進めている研究において、Arf6経路の活性化には細胞内メバロン酸代謝経路活性が必要であることを、その詳細な分子機構と共に見出しているが、statinなどによるメバロン酸代謝阻害剤によっても癌の放射線抵抗性を著しく低減できることも明らかにした。
乳癌の放射線抵抗性に関して、研究の仕上げとして、動物実験の準備を進めている。また、stainがArf6経路を遮断すること、statinと放射線との併用が乳癌細胞の放射線抵抗性を顕著に減ずることを明らかにしたが、この件は既に特許申請している。多くのstatinは既に市販薬として汎用されている。実際の臨床応用に向けて、本学放射線科とも相談を始めているが、まずは、基礎となる論文発表が急がれる。Arf6経路は腎明細胞癌や膵癌にも高頻度で存在することも他の研究において見出している。これらの癌に対しても同様なことが成り立つのかに関する研究も進める。
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Sci Rep.
巻: 4 ページ: -
10.1038/srep05094.
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