研究課題
引き続きBリンパ球をモデル細胞として用いた研究を継続した。B細胞は分化段階特異的にマーカーとなる分子の転写量が変化することが知られているので、有用なモデルケースであるからである。またB細胞由来のリンパ腫では、EZH2の変異が報告されていることからも、B細胞の増殖と分化にEZH2が制御するヒストン修飾とそれにともなう転写の変化が関与していることが期待される。前年度に取得した正常細胞とEZH2欠失細胞での転写状態とH3K27me3の修飾の変化の網羅的に探索した結果を解析した。その結果、EZH2欠失細胞では、予想通りH3K27me3のレベルが低下していた。また、転写が活性化している遺伝子リストを得ることもできた。それによると、100あまりの遺伝子が転写活性化し、かつH3K27me3のレベル低下を認めた。しかし、EZH2依存的に転写とH3K27me3状態が制御されている遺伝子について、プロモーターの塩基配列、クロモゾーム上の位置、GO解析などを行ったが、その特徴を見出すことはできなかった。膵β細胞における外環境の変化にともなうinsulinの分泌などの反応とそれを制御している転写とエピゲノム変化に関する研究に着手した。MIN6細胞では、培地に glucose を添加するとこれまでの報告通りinsulin、c-fos、srxn1 などの転写が上昇することが確認された。これらの遺伝子は、基底レベルではH3K27me3が高いレベルで認められるが、glucoseによって転写が活性化するとH3K27me3の修飾が低下し、転写量とH3K27me3の負の相関関係が見出された。さらにEZH2の発現の抑制株を作成し、glucoseに対する応答性を検証したところ、insulin、c-fos、srxn1のglucose に対する転写応答性は、EZH2の活性に依らず変化が見られた。
2: おおむね順調に進展している
モデル細胞として選んだBリンパ球とMIN6細胞の実験おおむね順調に進み、いくつかの決定的データを取得することに成功した。しかし、網羅的データの解析から、転写を制御する修飾を産み出す機構の解明については、未だそれを強く示唆するデータの取得に至っていない。MIN6細胞については、安定的な培養条件を確立することに時間を要した。その理由は明らかではないが、結果としてグルコース添加による転写環境の変化を調べることができ、網羅的なデータを取得することができた。この網羅的解析については、研究開始時からデータを取得するための技術的な問題の解決はしており、今年度は、それぞれのサンプルについて、網羅的に転写量とH3K27me3レベルの検討を行う予定である。また、glucose添加から転写とエピゲノム変化の時系列的変化についても調査を行う予定である。
Bリンパ球をモデル細胞として用いて多くの知見を得ることができた。次年度からは免疫グロブリン遺伝子の発現と遺伝子の核内配置についての研究を開始する。そのために3Cシークエンスの条件検討と、解析法の開発をまず行う。十分に再現性を持って解析が可能となれば、EZH2の活性型変異を発現する細胞を用いた解析を行い、EZH2の活性化とそれに伴うH3K27me3の変化が遺伝子の核内配置にどのような変化をもたらすのか解析を行う。同様に、glucose 刺激によって発現が誘導される遺伝子について、核内配置の変化をMIN6細胞を用いて調べる。三次元FISHや3Cによってinsulin 遺伝子やsrxn1遺伝子と相互作用する遺伝子群が、glucose 投与前後にどのように変化するのかを調べる。さらに、EZH2の発現を抑制した細胞で、遺伝子局在を調べ、H3K27me3修飾が遺伝子の局在にどのような役割を果たしているかを解析する。次に、CRISPR-Cas9システムを用いて、転写開始点の欠失を誘導する。数百ベースの欠失により、転写を抑制できることはすでに確認済みである。特にMin6細胞でglucoseにより転写が活性化されるinsulin 遺伝子やsrxn1遺伝子の転写活性化を遺伝子欠失によって抑制した時のH3K27me3の変化について調べる。そして転写変化とH3K27me3の変化が核内配置にどのような変化を与えるのか調べる。また、glucose 刺激のような一過的な刺激で変化をする遺伝子と、Hox 遺伝子のような分化段階で発現が規定されている遺伝子について、転写制御がH3K27me3の変化と核内の配置に与える影響について調べることで、分化段階を規定する遺伝子群と、細胞外シグナルによって発現制御を受けている遺伝子群との差が、どのような制御機構によって分類されているのかを調べる。
膵β細胞における外環境の変化にともなうinsulinの分泌などの反応を調べるために、MIN6細胞を用いて、転写とH3K27me3修飾の関係を調べる計画であった。MIN6細胞については、グルコース添加による転写環境の変化を調べるために最適の条件を検討するために時間がかかり、当初の計画を遂行することができなかった。
次年度は、転写をCRISPR-Cas9システムを用いて人工的に制御した状態での網羅的解析を進める予定であり、網羅的解析のために計上していた予算を次年度に使用することにした。網羅的解析については、研究開始時から技術的な問題の解決は終了しているので、適切な再現性が十分に確認できれば、直ちに解析に着手する予定であり、次年度前半にはデータの取得を終了し、後半はデータの統合解析を行う予定である。
がん医学コアセンター細胞増殖制御分野http://www.devgen.med.tohoku.ac.jp/index.html
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