研究課題
栄養飢餓時には体タンパク質が分解(異化)される。分解されたアミノ酸は、タンパク質合成、糖新生、エネルギー産生などに利用されると考えられているが、その真の役割は完全には理解されていない。本研究では、マウス個体を用いてオートファジーによって生じたアミノ酸が翻訳へ及ぼす影響を解析し、飢餓時のタンパク質代謝を総合的に理解することを目的としている。本年度は、肝特異的Atg5欠損マウス(Atg5f/f;Mx-CreマウスをpIpC処理したもの)を用いて、まずSUnSET(surface sensing of translation)法にてタンパク質合成率を評価した。これは、アミノアシルtRNAと類似しているピューロマイシンが新生タンパク質に取り込まれ、それを抗ピューロマイシン抗体で検出するシステムである(Schmidtら Nat. Methods 2009, 6:275)。その結果、24時間飢餓時のAtg5欠損肝で著しくピューロマイシンの取り込みが低下していた。また、mRNAあたりのポリソームの存在量を検出するポリソームプロファイリング法によっても、Atg5欠損肝でのポリソームの減少が再現良く検出された。これらの結果は、肝臓のオートファジーに由来するアミノ酸は、飢餓時の翻訳に非常に重要であることを裏付けた。しかし、培養細胞を用いた場合、これらのAtg5欠損の影響は観察されなかったため、今後の研究はマウス個体を用いて進めることとした。一方、出芽酵母ではオートファジー依存的なピューロマイシンの取り込みが観察された。
2: おおむね順調に進展している
オートファジーに由来するアミノ酸が肝臓での新規タンパク質合成に必要であるという仮説については十分な裏付けが得られたと考えられる。また、動物、培養細胞、酵母といったことなるシステムでの比較検討することで、今後のツールの絞り込みを行えたことも有効であったと考えられる。従って、現在までのところ、計画はおおむね順調に経過していると考えられる。また、本計画には大学院生1名が参画しており、その育成にも貢献している。
本年度はタンパク質のバルク合成の点で、オートファジーの重要性を解析したので、今後は個別タンパク質合成への影響を解析することになる。このためには、まず飢餓時に転写・翻訳されるタンパク質の情報を野生型マウスで得る。その後、そのパターンをオートファジー欠損肝と比較することで、特定のタンパク質の合成にオートファジーが重要であるか否かを検討する。それが特定された場合には、その生理学的意義の解析へと進む。また、培養細胞を用いた場合、これらのAtg5欠損の影響は観察されなかったため、今後の研究はマウス個体と酵母細胞を用いて進めることとした。特に、翻訳低下のメカニズムの解析は酵母の遺伝学を導入するのが有効であると考えられる。
本年度に予定していたタンパク質合成にかかる研究が順調に進み、当初の予定より小さい規模の実験で結論に十分なデータが得られた。
次年度に行う予定の質量分析を用いた個別タンパク質研究に、当初の予定より多くの試薬費が必要にあることが見込まれるため、次年度予算とともに使用する予定である。
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