本研究課題では、栄養飢餓時に誘導されるオートファジーの代謝生理学的意義を哺乳動物で明らかにすることを目的としている。これまで、ポリソームプロファイリング法およびピューロマイシンの取り込みによる新規タンパク質合成率の解析から、オートファジー不全であるAtg5欠損肝で飢餓時のタンパク質合成が低下することを明らかにした。そこで、肝と脳において、オートファジー不全条件下で増減するタンパク質を、ジメチルラベル法を用いた質量分析法によって網羅的な相対定量解析を行った。肝臓においてはmRNA量との関係も調べた。肝では摂食条件と飢餓条件でそれぞれ5匹のマウスについてプロテオーム解析をしたところ、サンプル間クラスタリングできわめてよい再現性が得られた。さらに、クラスタの分離の程度からプロテオーム全体としては、栄養条件による差よりもATG5遺伝子の有無の影響が大きいことが判明した。ATG5欠損よって減少するタンパク質には脂質代謝系などが、増加するタンパク質には、既知の選択的基質やNrf2ターゲット因子に加えて、インターフェロン誘導性遺伝子が多く含まれていた。これらは全体的にmRNAレベルとよく相関していた。一方、飢餓時の組織内アミノ酸濃度には有意な差が見られなかった。従って、オートファジー不全によるタンパク質合成阻害は、材料としてのアミノ酸不足というより、オートファジー不全による代謝プログラムの変動による可能性が示唆された。また、同様の解析を大脳と小脳で行ったところ、異なるセットのタンパク質の蓄積がATG5欠損で観察された。大脳と小脳で共通して蓄積する因子は33同定されており、その多くは転写レベルとは相関が無かった。これらには新規基質の候補が含まれていると考えられた。
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