研究課題
1)YAP1・TAZの細胞内局在、YAP1・TAZによる転写制御を指標として、合計4回の化合物探索を行った。得られたYAP1・TAZの活性化剤・抑制剤が、これまでに知られていない機構を介してYAP1・TAZを制御する可能性を見出している。2)YAP1に依存して増殖するA431細胞、TAZに依存して増殖するU87MG細胞を使って、YAP1・TAZ抑制剤のがん細胞に対する治療的効果を試験管内でアセイし、効果を示す候補化合物を絞り込んだ。3)RASSF6がYAP1・TAZの制御に関係するかを、YAP1・TAZ依存性TEAD応答レポーターアセイを使って解析したが、有意な変化を認めなかった。4)TAZの活性型を不死化ヒト乳腺上皮細胞に発現させると細胞は浮遊培養条件下で生存しスフェアを形成する。ところがYAP1の活性型を発現させてもスフェア形成は起こらない。この違いを利用して、YAP1とTAZの相違点を解析し、YAP1のN末端がスフェア形成を抑制する可能性を見出している。5)各種の転写因子をホタルルシフェラーゼに融合して発現させ、YAP1・TAZと免疫沈降し、相互作用を定量的に比較検討した。6)がん細胞においてYAP1・TAZを抑制すると、がん細胞培養上清によるマウス筋芽C2C12細胞に対する筋分化抑制作用が軽減することを確認した。7)ブレオマイシン肺線維症モデルにTAZ抑制剤の局所投与を行ったが、効果は確認されなかった。8)マウス間葉組織幹C3H10T1/2細胞の脂肪化に対するYAP1活性化剤のアセイを行い、YAP1はTAZと同様に脂肪細胞分化を抑制することを確認した
2: おおむね順調に進展している
1)YAP1・TAZの活性化剤、抑制剤候補から、解析に値する生物活性を絞り込む作業は予定通り進展した。アフィニテイーカラム法による分子標的同定は成功していないが、下記するように新しい方法への転換を図っている。化合物によってTAZそのものに起こる分子修飾を質量分析で行った結果、従来知られていないTAZの分子修飾を見出し、予測外の展開につながりそうである。2)平成26年度に大学の動物施設が改築され、動物実験が制限されたため、YAP1・TAZ抑制剤を対象とする動物実験が進捗しきれなかったが、年度明けから再開している。3)RASSF6はYAP1・TAZのレポーターを抑制し、RASSF6の発現抑制は、YAP1・TAZの活性を高めるという仮説をもって実験を行ったが、仮説は支持されなかった。TAZ抑制剤がブレオマイシン肺線維症に治療的に作用するという仮説を支持する結果が得られなかった。4)この他、これまで広く使われている薬剤にTAZ活性化作用があることの発見、筋分化を簡便に定量的に評価するアセイ系の樹立など、予測以上の成果もあがっている。
1)YAP1・TAZ活性化剤、抑制剤の分子標的決定については、共同研究を広げ、光標識ラベルによる方法、固定法を変えたアフィニテイーカラム法を行う。とくに、リン酸化を介さずにYAP1・TAZを制御する化合物、従来から広く使用され今回思いがけずTAZを活性化する作用が見いだされた化合物について標的同定を優先する。2)大学の動物施設の改修が終了したので、動物実験を再開する。3)RASSF6と結合する膜裏打ち蛋白MAGIを発現抑制すると、YAP1依存性TEADレポーター活性が上昇するという報告があるので追試を行い、MAGIとYAP1・TAZの関係を明らかにすると共に、RASSF6がMAGIの作用に関わる可能性を解析する。4)肺線維症の病態とYAP1・TAZの関わりについては、マウスのブレオマイシン肺線維症モデルに依存するのでなく、実際のヒト症例の解析データをもとに再検討を行う。YAP1・TAZと転写因子の相互作用の特異性やクロストークの可能性については、当初の計画通り継続するほか、前年度に得られた予測外の成果をもとに、以下を行う。1)TAZの新しい分子修飾の生理的な意義付けを行い、この分子修飾を起こす責任酵素を同定する。2)がん細胞が分泌する筋分化抑制作用を持つ分子を同定し、がん悪液質の治療標的となるかどうかを明らかにする。
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